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2016.07.13

インタビュー

父は認めないけど──認知症の母は、20代に戻ることが増えた。

『プロチチ』では発達障害の男性の子育て、『おかあさんとごいっしょ』では3組の母と娘の微妙な関係と、様々な家族のかたちを描いてきた逢坂みえこ先生。そんな先生の最新作のテーマは認知症。『母はハタチの夢を見る』発売に際し、お話を伺いました。

逢坂みえこ(おうさか・みえこ)

大阪府出身。関西大学文学部英文学科卒業。1982年、「ぶ~け」(集英社)に掲載の『美味しいのがいい!』でデビュー。1991年『永遠の野原』で第15回講談社漫画賞少女部門を受賞。『プロチチ』『おかあさんとごいっしょ』など、青年誌や女性誌で幅広く活躍している。

認知症との向きあい方を模索する家族の物語

──なぜ認知症をテーマにしようと思ったのでしょうか。

逢坂みえこ先生(以下 逢坂):きっかけは義母の発症です。去年のお正月会いに行ったら「この人ら、誰やったかなあ」と言われて。認知症の人と関わった事もありませんでしたし、それまでの義母は「ちょっと物忘れがひどくなってきたなあ」という程度だったので、本当にびっくりしました。作中の良子さんの反応はかなり義母のことをもとにしていて、「この子は孫」と紹介した時「ええ!? ほんなら私、おばあちゃん? 腰曲げて歩かなあかんわ」と冗談が返ってきたのも実話なんです。

『母はハタチの夢を見る』
『母はハタチの夢を見る』

実話をもとにしたエピソードの数々

でも、戸惑っているのを義母に悟られると傷つけてしまいそうなので、みんなで必死に平静を装いました。そのあと、義母の家から帰る道すがら、これから私たちが取るべき態度を夫や子供と相談しました。義母に話を合わせようとか、間違いを指摘しない方がいいんじゃないかとか本当に色々考えて。あまりに衝撃的すぎて、妙に冷静になったことを覚えています。帰ってからは友人や知人に話を聞いたり、専門書を片っ端から読みあさって勉強をしました。

──主人公の良介も戸惑いつつ認知症のことを調べていましたよね。対してお父さんは「母さんが認知症のわけないだろう」の一点張りです。

逢坂:お父さんを描く時は、彼の戸惑う気持ちに寄り添いたいと思いました。認知症である事を認めなかったり、今まで出来たことが出来ない妻に対して怒ったり、苛立ったり、色々あると思います。でも無理のない事です。何十年も連れ添った相手が自分と過ごした時間を忘れてしまったら、そう簡単には受け入れられないですよね。戸惑いを描写はしても、ジャッジはするまいと決めていました。

『母はハタチの夢を見る』
『母はハタチの夢を見る』

「理想的にならないように気をつけた」というキャラは、完璧じゃないところが人間らしい

──認知症はゆるやかに症状が進むことや、症状がいったりきたりすることが知られています。『母はハタチの夢を見る』では、良子さんは気持ちが75歳から若返り、主にハタチの頃に戻ってしまっていますが、なぜこの年齢に設定したのでしょうか?

逢坂:専門書などで勉強している時、認知症の方は自分の一番輝いていた時代に戻る事が多いということを知りました。良子さんにとっては、それが結婚する前の娘時代だったのではないかなと思ったんです。

『母はハタチの夢を見る』

初めて見る、母親の顔をしていない母親。美しい記憶は時を経ても褪せることがない。

──描くのが辛かったシーンはありますか?

逢坂:楽しく自転車で現実逃避した後、ふと我に返ってしまうところですね。義母も自分を若いと思っている時の方が元気で幸せそうなので、楽しい思い出の世界から現実に無理やり引き戻されたこのシーンは描いていて胸が詰まりました。

『母はハタチの夢を見る』

ハタチの思い出の中にいた良子は、突きつけられた現実の姿に愕然とする。

──『母はハタチの夢を見る』を描く前と後で認知症に対する考えに変化はありましたか?

逢坂:認知症を身近に感じるようになりました。私もいずれボケるのね、と。どうせなら、いいボケ方をしたいと思うようにもなりました。

──最後に読者の方へのメッセージをお願いします。

逢坂:『母はハタチの夢を見る』で描いたのは、ある家族の物語です。これが認知症のすべてではないですし正解でもありませんが、これを読んでくださった方が少しでも認知症を身近に感じてくださったなら幸いです。

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