寓話(ファブル)と呼ばれる殺しの天才が1年間休業し、一般人として静かに暮らそうと試みるもそうは問屋がおろさないのか一難去って二難三難、てんやわんやの大阪生活……。週刊ヤングマガジンで14年にわたる長期シリーズ連載となった『ナニワトモアレ』 、『なにわ友あれ』で人気を博した南勝久先生の『ザ・ファブル』。連載がはじまって約2年、ますます盛り上がる『ザ・ファブル』の誕生秘話を、最新コミックスの発売を記念して南勝久先生が語ってくれた。
――14年にわたる長期連載を終えられた直後に始まった『ザ・ファブル』ですが、「殺しの天才が殺さない」というメイン・テーマはどのように熟され生まれたのか、発表までの経緯を教えてください。
『ナニトモ』&『なに友』を14年描いてきて、大きな収穫のひとつがゼンちゃんのキャラでした。主人公を差し置いてゼンちゃんの人気は圧倒的!「強い者」に読者が惹かれたように、僕もゼンちゃんを描いていると楽しかった。
じゃあ次回作は単純に強いキャラを描きたいと思った。とことん強いキャラだ。
ヤンキーのケンカレベルじゃなく、生き死にまで背負って戦えるキャラだ。
そうなると職業が限られてくる。軍人、傭兵、ヤクザ、そして殺し屋……。どの世界にも天才がいるように、これらの職にも必ず天才がいるんだろうと考えた。ただ軍人、傭兵には専門的な知識がハンパなく必要で、ヤクザを描くには社会的な問題があり、いずれすぐに行きづまると思った。
そこで「殺し屋」だ――。
軍人、傭兵、ヤクザの方々にくらべると「殺し屋」という職の方には、まずお目にかかれない。それでいて映画や小説ではよくあるテーマとして大衆の認知度も高い。幽霊やUFOのようにファンタジーな要素が強いので自由に描けると思ったのが「殺し屋」をえらんだ理由だ。テーマや主人公はファンタジーだが、それをとりまくキャラがリアルなら、こんな殺し屋が実在しそうだと思ってもらえる作品になるのではないかと考えた。あとはこの“よくあるテーマ”を“見たことない”やり方でと考えた時、“人を殺さない”方向で話を練った。殺し屋が引退した設定の話は世界中にわんさとある。映画、小説などいろいろ調べながら、たどりついたのが「殺し屋1年休業」である。
無敵の天才殺し屋が「今日から1年間休業しろ!」と宣告されたら、どんなふうに社会で暮らすのだろうか……。ここまで決まると頭の中でアイデアがあふれるようにはじけ出した。ファブルの誕生である。
コロシ、ダメ、ゼッタイ(1年限定)
――読者の方からは「ケンカのシーンが秀逸」「リアリティを感じてスリルがすごい」などカタルシスを感じる読後感を楽しみにしている声も多い中、先生ご自身が描いていて一番楽しいシーンはどこですか?
ボクサーのジャブは不意にはかわせない――。
ボクシングはスポーツなので、ジャブで相手の体勢をくずしたとこに強力なストレートでKOをねらう。これが殺し屋なら……。そのかわせないジャブは相手の喉をねらう。
そんなふうに“もし殺し屋なら”を頭に置いた時、ちょっとした動きの中で応用しだいで危険な技になりえる事がある事に気づく。僕は拳法を10年ほど習ったが、そんな風に考えてみると、あの技をこうするととんでもない事になる……なんて今さらに気づいた。
でもファブルの醍醐味はそれをたやすく出来る奴ががんばって手をぬいたあげく、ケンカなどに自ら負け、それを本人はカッコイイと思っている変人的なところにある。読者の方にそこが魅力であると感じてもらえたら、それが僕にとってもカタルシスだと思っている。
“プロとして”の神対応
――妹役のヒマ魔女・ヨウコちゃん、バイト仲間の恩人・ミサキちゃんなど魅力的な女性たちが登場しますが、ハードな作品内に女性を描かれる際、意識されている事はありますか? また、出てくる女性はやはり先生のタイプですか?
ヨウコの設定はファブルの構想初期に女性を主人公にしたらどうかと考えた時期があった。無敵の天才女殺し屋の「1年休業物語」だ。今考えても面白いものが描けそうな気がするが長期連載を考えた時、やっぱり主人公は男の方が僕には描きやすいと考えた。ならこの女キャラは相棒にしようと考え、今に至る。
「だってヒマなんだもの」は女の原点である。
読者的にはいろいろ意見はあるだろうが、僕的にはこんな女にならだまされても憎めない、そう思えるキャラにしているつもりだ(笑)。
好みでいうとミサキちゃんのような真っすぐな娘がタイプだが、ミサキちゃんもちゃんとズルさや、かけ引きもする人間味のあるキャラにもっとしたいと思っている。
ヒロインだから「良い子」 そんな女キャラにしたくない。
だってそんな都合のいい女キャラはもうそこらにたくさんいるでしょ(笑)。
ヨウコ、思った以上にヒマ
――作品の舞台でもあり、先生ご自身が在住でもある「大阪」。大阪が舞台の街を描くことのいいところとつらいところを教えてください。
前作同様舞台が大阪ですが、『ザ・ファブル』の大阪と『なに友』の大阪はまったく別物になったと思う。『なに友』の大阪は平成元年から2年までが舞台で実際の地理をかなりリアルに再現した。環状線をキャラ達が走るコース通り写真から起こして、コーナーのブレーキング場所まで念入りに表現した。
14年も連載したので町の風景が変わったり、使いたい車がなかったり、電化製品ひとつにとっても年々描きにくくなり、週刊連載のペースで描くにはかなりキツくなっていった。
一方、ファブルの大阪はつねに現代で、大阪府太平市という架空の街を設定した。
例えば、とある北海道の一角がマンガに出たとしても、架空の場所なのでアリとなり、ストーリーに集中して事が運んでいけるため余計な事を考える必要がなく本当に描きやすくなった。だからそう、あなたの街もいつか太平市として登場するかも……です(笑)。
舞台は大阪
――最後に読者の方に一言お願いします。
ファブルを楽しんでいただいてる読者には単行本派、ヤンマガ派といると思います。ヤンマガ派の方々には話の展開がおそいなどモヤモヤするようですが、僕はゆっくりでもなるべくちゃんと描きたい。
それも味だと思ってじっくりつき合っていただけたらうれしいです。
夢、希望、友情などは少年誌で。それに少しあきたらファブルをどうぞ。
いろんなおもろい奴がいるなーと楽しめるようこれからもがんばります。
『ザ・ファブル』第7巻発売記念プレゼント!
第7巻発売を記念して、南勝久先生直筆サイン色紙を抽選で1名様にプレゼント!
【応募期間】2016年9月7日(水)~16日(金)