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2016.07.29

レビュー

【制御不能スケベ】呪われた男子を操る魔女。毒舌プレイが素敵すぎる!

イケメン無罪とまでは言わないけれど、世の中には「○○だったらいいいけどキミがやっちゃダメでしょ!」って行動が意外と多いものだ。ちょっと前に流行った「壁ドン」しかり「頭を撫でる」しかり、我々三次元人が実行に移そうものならイエローカードをもらってもおかしくない。犯罪性が増すとレッドカード一発退場の恐れもある。どこから退場するかって? そりゃあ社会という名のフィールドだよ!

最上暁(もがみあかつき)という男がいる。彼は第5回講談社ラノベ文庫新人賞佳作受賞作『お前を、祝ってやろうか!? 1.ラッキースケベの呪いを解いてくれ!』の主人公だ。

彼自身は一見どこにでもいるごく普通の高校生。けれどその行動(?)は普通じゃない。ふとした弾みで女の子の胸を揉んでしまったりスカートに頭から突っ込んでしまったりする「ラッキースケベの呪い」にかかっているせいで、何度も何度も現代社会から退場寸前の綱渡り人生を歩んでいるのだ。

不可抗力でパンツが拝めるとか正直羨ましくない? 俺だって30年近く生きて来て1度しかないよぉ……とはさすがに言えない。なにしろ彼のラッキースケベは相手を選ばないし、発生頻度も相当なものだ。"少なくとも週に一、二回、多い時は一日に何回も"(p19)しかも、相手は幼稚園児からおばあちゃんにまで! これでは要注意人物としてマークされるのもいたしかたない。ついには、地元を追い出されるように通学に1時間ほどかかる高校に進学することになってしまったのた。

だが人生ハードモードな暁にも転機(!?)が訪れた。こともあろうに、全校生徒の目の前でラッキースケベを発動させてしまい、いたたまれなくなって現場から逃走! 憂鬱な気分にひたっている彼のところに、クロエ・ララ・プレスヴェートと名乗る魔女が降ってきた。

「最上暁……ラッキースケベの呪い……呪い自体はアホらしいけど、Aランクなのよね。こんな高ランクの呪い保持者がここにいるのに、どうにもできないなんて。他に何か命の雫を回収する方法は……」(p28)

一目見るなり呪いを看破した魔女は、ある契約を申し出る。もし暁がクロエの試験を手伝うなら、彼の呪いをランクダウンさせて多少はマシな生活が送れるようにするというものだった。提案を受け入れた暁は、人間界で「命の雫」を集めるために奔走することになったのだ。

呪いを抑えるための方法としてクロエが選んだのは、別の呪い――「主人公の呪い」による上書きであった。暁の世界は改変される。手始めに、彼の両親は海外へ向かった。続いて隣の家の少女梨華(りか)はなんと最初から暁の妹であったことに。暁が全校生徒の目の前でパンツを拝見してしまった少女・滝川こよい(たきがわこよい)は幼馴染となっていた。おまけに魔女クロエは主人公の家に同居し、転校生として同じクラスにやってくる。かくして「主人公」となった暁は、多少のラッキースケベも許される立場へ華麗なる転身を遂げたのだった……。この大胆な導入から暁とクロエの物語が始まる。

魔女、世界の変容、そしてなにより肝心な(?)スケベと魅力的な要素をいくつも押さえているが、持ち味はそれだけではない。 本書の見所は何と言ってもクロエの毒舌(!)ぶりにある。彼女の暴言は磨かれた玉の輝きを放っており、ゲラゲラ笑いながら、ネットスラングで言うところの“これはひどい”に近い感覚で読み進められた。ことあるごとに自害しようとするこよいちゃんの言動もいちいち腹筋にひびくし、著者の言葉選びのセンスはめちゃめちゃ鋭い! キレのある暴言、コクのある悪罵をたくさん読みたい、という方にはなんともたまらない作品と言えるだろう。

野心的な試みに満ちた作品ではあるし、その攻めの姿勢には感心した。次回作に向けて、ここで試みた手法がどう磨かれてくるか、会話のキレはより鋭くなるのか。とても楽しみだ。

レビュアー

犬上茶夢

ミステリーとライトノベルを嗜むフリーライター。かつては「このライトノベルがすごい!」や「ミステリマガジン」にてライトノベル評を書いていたが、不幸にも腱鞘炎にかかってしまい、治療のため何年も断筆する羽目に。今年からはまた面白い作品を発掘・紹介していこうと思い執筆を開始した。

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