「イブニング」14号から不定期シーズン連載が始まった『Op-オプ- 夜明至(よあけいたる)の色のない日々』。保険調査員と訳アリ少年を中心に描かれるミステリーは人気ボーイズラブ漫画家ヨネダコウ先生初の青年誌作品ということもあり、連載開始前から多くの注目を集めました。その制作の舞台裏を探るべく、デジタルボーイズラブ雑誌「ハニーミルク」編集部がイブニング担当編集に直撃取材しました。
BLの枠を超えた人間描写力
ハニーミルク編集部(以下 ハニーミルク)『Op-オプ- 夜明至の色のない日々』すごく面白かったです! ボーイズがラブしていなくてもヨネダ先生らしかったですし、それでいて「イブニング」に載っていることに違和感がありませんでした。すごく青年誌らしい作品だなと。
イブニング担当編集(以下 イブニング)ヨネダ先生も描き終わった後、「なんか青年誌って感じですね!」とご自分でおっしゃっていたんですよ(笑)。
ハニーミルクヨネダ先生はもともとクールな絵柄ですし、ボーイズラブ(BL)作家さんながら男性読者も多いかたですが、イブニング編集部はどういったところに魅力を感じたのですか?
イブニング特別なことが一切起こらない普通のサラリーマン同士の恋愛物語でも、人間ドラマに昇華させて読ませきる卓越した描写力ですね。人間の人生が交差する過程にカタルシスを感じました。この方なら恋愛という括りをこえた人間ドラマを描くことができると確信してお声をおかけしました。
ハニーミルク BLを読んだことのない男性がヨネダ先生の漫画を面白いと言っているのを聞いたことがありますが、それって純粋に作品力が高いということですもんね。
イブニング先生の作品を読んで、大切なのはBL、青年誌というジャンルではなく、読者が血の通った人間を感じられるかということなのだと思いました。あらためて、漫画とはキャラクターありきですし、魅力的なストーリーというのはキャラなしには生まれないと教えられました。デビュー作『どうしても触れたくない』は、8年前の作品にもかかわらず未だに根強い人気があり、2014年には実写映画化もされました。ヨネダ先生はよくストーリーテラーだと言われますが、それもキャラが非常に魅力的だから。この作品のファンにゲイの方が多いと聞くのも、心理描写が巧みでリアルだからだと思うんです。
妄想を掻き立てるキャラクターたち
ハニーミルク『Op』のキャラクターたちはどうやって生まれたのでしょう?
イブニング編集部としては当初バディ物を提案していて、保険調査員の設定が決まる前に、まずヨネダ先生が描きたいキャラクターラフを何パターンか出してくださいました。主人公・夜明(よあけ)の根幹となる“ある設定”が決まったことから周囲のキャラがどんどん決まっていきました。
38歳バツイチ保険調査員・夜明×訳あり少年クロ。2人の関係は!?
ハニーミルク“ある設定”とはなんですか?
イブニングそれは是非、第1話後編でご確認を(笑)。ただ、クロのキャラクター設定も、夜明の“ある設定”も、2人が特別な関係となる理由と深く結びついています。
ハニーミルククロはヨネダ先生のキャラにしては感情的で、読んでいて新鮮さがありました。基本目上の人にはちゃんと敬語を使っているのに夜明にはタメ口でつっかかったり、年上の女性に赤面したりするのも10代らしくて可愛いなって。
イブニングせっかく青年誌で描くのだから、新しい挑戦をしたかったとおっしゃっていました。今までにないキャラクター造形もその1つだと思います。
ハニーミルク紅一点の千秋さんも嫌味がなくて痛快です。見た目は女子アナみたいなのに、夜明に対する容赦のなさとか、それでいてクロを見た時のキャッキャした感じとか。
絵も含めて描写は多くないないのに、元キャバ嬢と説明されて、その設定がストンを腑に落ちたんですよね。そして、そんな彼女の苗字を玉袋にしたのも素晴らしいセンスだなって。
イブニングあれは先生の遊び心です(笑)。キャラづくりで、先生は特にキャラ同士の関係性を大事にしています。現実でも人って相手によって見せる顔が違いますよね。それらの矛盾も含めて1人の人間です。いくつもの関係性を考えているうちに話が膨らんで、先生もキャラのことを知りたくなり、どんどん設定ができていくのだと思います。
「描いていて楽しい」というドS男子・行政(ゆきまさ)、面倒事を押し付けられる夜明、そして行政には敬語を使うクロ。三者三様の異なる関係性。
ハニーミルク多面的に見ているからキャラが立体的なのかもしれないですね。
イブニングどんな平凡な人間も、他人に言えない秘密や事情を抱えていると思うんです。『Op』はメインキャラが多いですが、1話目にしてすでにそれぞれの内面に抱えるものが少しずつ描かれています。まだ表に出ていない設定もたくさんありますが、中には出てくるのもあるし最後まで出ないものをあるかもしれません。
ハニーミルクぜひ出して欲しい! 夜明と行政の関係然り、わかりやすく描かれてはいないけれど、言い回しや仕草、ちょっとした表情に抱えているものが滲むのがたまらないんです。夜明の部屋にある位牌も意味深ですよね。妄想がはかどります。
イブニングヨネダ先生のキャラは妄想を掻き立てますよね。「ハニーミルク」vol.2の表紙を見た時もそう思いました。まず目の力に引き込まれてしまって。
「癒ししかいらない!」をコンセプトに創刊されたデジタルBL雑誌「ハニーミルク」vol.2の表紙は、ヨネダコウ先生!
イブニング白髪にピアスに学ランというシンプルな要素にもかかわらず、「この髪は生まれつきなのか、ブリーチなのか」「たくさんのピアスをしているってことはちょっと不良?」とか「顔にホクロがたくさんある人って胸元にもホクロあるよね!」とかもう色々なことを考えましたね。どんどん興味がわいてくるし発見がある。たった1枚の絵だけでキャラが立っている。インパクトもあって素晴らしい表紙だと思いました。
ハニーミルクこの視線の先にはいる人は誰なんだろう、とかも考えません?
イブニングめちゃくちゃ考えました(笑)。
泥臭い人間模様を映す『Op』の世界
ハニーミルク適度に無機質で適度に生活感がある、この舞台の具体的なイメージなどはあるのですか?
イブニング夜明の職業が保険調査員に決まった時、ヨネダ先生から彼みたいにちょっとくたびれた人がいそうな“川が近くにあって雑居ビルが並んでいる雑多なところ”が知りたい、というリクエストをいただいたんです。ふと浮かんだのが蔵前でした。浅草ほど色が強くなく、それでいて近くに昔の色街の名残もあって隅田川沿い。やや泥臭くて古いにおいがする感じを気に入ってくださって。
ハニーミルク今までの作品にはクールでスタイリッシュ、硬質なイメージがあったので、今回のような人情味のある下町感は新鮮でした。
イブニング澄み切ったキレイな川ではなくてちょっと濁った都会の川の風景も湿り気があってよかったのかもしれません。蔵前以外にも、作中には実在する場所がいくつも登場しているので、ぜひ夜明たちが嗅いだにおいを探してもらえたらと思います。
「表紙カットの場所は厩橋です。他の場所はぜひ皆さんで探してみてください」
ハニーミルク前編では事件も人間模様も色々なタネがばらまかれていたので、後編はそれを収穫して美味しくいただけるのだろうなと思っています。
イブニングヨネダ先生の作品を初めて読むという方には、まずシンプルに推理物の漫画として彼らが織りなすストーリーを楽しんでもらえたらうれしいです。以前からのファンの方には『囀る鳥は羽ばたかない』(大洋図書)のキャラが出てきたりしているので、キャラ同士の関係性などディープなところまでぜひお楽しみください。ただし、王道の保険調査員の推理ドラマだと思って読むと、皆さんいい意味で期待を裏切られると思うので、ヨネダ先生が張り巡らした罠に酔いしれて欲しいです。
コミックプラスではヨネダ先生にインタビューを敢行!
──初の青年誌での連載への意気込みをお聞かせください。
ヨネダコウ先生(以下 ヨネダ):読者層が今までとは違うので少し緊張しますし、新しいものへの挑戦ではありますが、スタンスとしてはいつもと変わらずにできたらそれが一番いいなと思います。
──1話ではすでに何人ものキャラクターが登場しました。ヨネダ先生が特に萌えを感じるポイントや作品の見所についてお教えください。
ヨネダ:第1話後編で、今作のテーマ的なものが浮き彫りになります。そのテーマから生み出したキャラが夜明でありクロであり行政です。今作には表立ってあまり当たりの柔らかい人は出てきません。みんな身体的にも言葉でも夜明を苛め傷めつけようとしますし、夜明も案外無神経に人を傷つけます。そんなところが萌えなのかもしれません。
見所は夜明と行政の掛け合いやクロと夜明が今後どんな関係になっていくのか、あと千秋のギャップも楽しんでもらえれば。お仕事漫画としても見所になるといいのですが…その辺りはまだまだですので精進いたします!
──読者の方へメッセージをお願いいたします。
ヨネダ:「イブニング」は主に男性の読む雑誌なので雑誌に寄せるところはありますが、根っこのところで描きたいものは今まで女性に向けて描いていたものとあまり変わらないと感じています。殻であるハードな面と、ソフトな面を程よく織り交ぜて、男性にも女性にも楽しんで貰えるような作品になればいいなと思います。仕事量の関係からあまりコンスタントに描くことができませんが、掲載の際には読んでいただけたら嬉しいです。