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2016.06.02

レビュー

【廃人の勝ち】ゲームに奴隷召喚されたけど、逆に美少女を奴隷にしたよ。

「ゲームをやり込んでいたらそのゲーム世界に召喚されました」
この設定、書く側としては非常にやりやすい。現代人がプレイするゲームの世界だから、架空言語などは作らなくても構わないし、主人公はゲームの攻略情報を知っているから先の展開も読み放題、バグ技や裏技も使い放題だ。

だからこそ、異世界召喚物を読む際は「アイデア、設定等をどのように扱うか」という点に評価の軸がスライドしがちで、そこで著者の実力が問われることになる。パロディ物を書く際に「でもこの面白さは原作ありきだよね」と思われるようなもので、書きやすいには書きやすいが、高い評価を得るには工夫が必要だ。

じゃあ話題の人気作、『異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術』はどうなのだろう?

少なくとも「ありきたり」とは言えまい。確かに本作の筋書きは至って王道的かつシンプルだ──主人公・坂本拓真(さかもとたくま)はMMORPG「クロスレヴェリ」の世界に召喚されて、元ゲーム廃人らしいチートっぷりを発揮しながら少女たちと異世界を冒険する──捻りはない。偽りもない。けれど、この作品はそこまで素直でもない。

主人公は「魔王」として異世界に召喚され、2人の少女──エルフのシェラ(ちょっとおバカ)と豹人族のレム(ネコミミ)に召喚獣として使役されるはずだった。《隷従の儀式》を行われ、《隷従の首輪》をかけられ、彼は強制的に2人の冒険についていくことになる。

……かと思いきや、そこで意表をつくワンアイデアが入る。なにしろ彼は最強のゲームプレイヤー。魔術反射効果のある超レア装備をゲットしていたので、《隷従の儀式》は術者であるシェラとレムに跳ね返る。結果、2人の少女は拓真に隷属してしまうのだった。「異世界に召喚されたらいきなり2人の美少女が奴隷になりました」というこの導入、巻き込まれ方としては一挙両得というか、実にクレバーだと思う。


さて、こうして拓真は2人の召喚少女と一緒に冒険することになる。だが彼は「コミュニケーション能力に問題がある」ため美少女相手にまともな会話ができるはずもない。したがって、彼に取れる唯一の方法を使って、どうにか会話を進めて行くことになる。なるのだが……

──ごくごく最近、女の子に話しかけた経験があった!
拓真はケンカを続けるレムとシェラに向けて、数少ない経験に基づいて、声をかける。

「くだらん争いはやめるがいい。貴様らは今、《ディアヴロ》の前にいるのだぞ」

二人がピタリと動きを止める。
そして、こちらを見た。
──よし、これだ!
挑戦してきたプレイヤーたちに向けた魔王っぽい口調だった。これなら、女性プレイヤーとも問題なく会話できる。(1巻p28-29)──

いわゆる天才の発想というやつだ。
常識人は「どう考えても女の子と普通に会話する方が難易度低い。コミュ力を上げよう」と考える。廃人は「コミュ力が0だから魔王ロールプレイ以外に選択肢がない、魔王になろう」と考える。タイムアタックや縛りプレイ、やり込みプレイなどでたまに見かける転倒の醍醐味が取り込まれているというわけだ。この選択は功を奏し、拓真は魔王ディアヴロとして異世界を征くことになる。


《隷従の首輪》をかけられたシエラ(上)とレム(下)

この拓真=魔王ディアヴロのゲーマーらしい考え方も本作の見所の1つと言える。異世界召喚物の序盤は、世界設定や各キャラクターの立ち位置を把握してもらうため、小規模な冒険をこなしつつ読者に世界観を示していくという流れになりやすい。本作ではその過程で「ゲームのクロスレヴェリ」と「自分が召喚されたクロスレヴェリ」の違いをゲームプレイヤーの視点で示すという手法を採用しており、これがゲーム世界のリアリティを生み出している。

例を挙げよう。ゲームでは比較的安価で流通する素材に対し、1回死んだらそれっきりなこの世界ではとても高い値が付けられている。移動にも時間がかかり過ぎるうえに死の危険が常に付きまとうから、そうならざるを得ないのだ。また、シェラやレムの召喚士という職業は、ゲームではさほど強くない不遇職だったはずだが、召喚獣を盾にできるという生存性ゆえにこちらの世界では憧れの職業として扱われている。細かな違いを調べていくディアヴロの姿はゲームの検証勢と言っても過言ではない。

中でも筆者が感心したのは、「倫理的な問題でゲームからは排除されていた要素がこの世界には存在する」という設定だ。

そう、すでに『異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術』をお読みになっている方には説明するまでもないことだが、実はこのシリーズにはもう1つ特筆すべき点がある。「倫理的な問題でゲームから排除されていた要素」がそのまま存在する。つまり、挿絵および一部のシーンがえっち過ぎるのは、バグではなく仕様である。

大事なことだからもう一度言おう。えっちなのは仕様です。

「いやーまさか今時お洋服を溶かすスライムなんか出ませんよね?」とか「魔力を流すと言ってもまさか『その穴』からじゃないですよねー」とか、そんな甘い予想はことごとく裏切られるので注意が必要だ。純情派としては内容をつまびらかにするのに若干の抵抗があるので、持ち出す際は細心の注意を払うべきであるとだけ忠告しておこう。

レビュアー

犬上茶夢

ミステリーとライトノベルを嗜むフリーライター。かつては「このライトノベルがすごい!」や「ミステリマガジン」にてライトノベル評を書いていたが、不幸にも腱鞘炎にかかってしまい、治療のため何年も断筆する羽目に。今年からはまた面白い作品を発掘・紹介していこうと思い執筆を開始した。

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