落ちこぼれが、ある日突然、脚光を浴びることがある。
ヒロイン、マリア・サラマンディーネ
昨年アニメ化された『空戦魔導士候補生の教官』のように、落ちこぼれヒロインを天才型の主人公が鍛えなおすタイプの作品が、最近では『教官もの』といわれて注目されている。主人公が華々しく活躍する爽快感と、ヒロインが試練を乗り越えて成長していく達成感が魅力だ。今回紹介する『現代魔法のいらない魔術師 下僕と生きる第二の伝説』も、最強魔術師と出会って落ちこぼれヒロインが成長し、世界を救う魔法学園ファンタジーだ。
人類最古にして最強の魔術師ロウエン・カフ・エグゼンプリオは、魔王討伐の旅を終えて祖国へと帰る途中、召喚魔法によって見知らぬ土地へ飛ばされる。ロウエンを召喚したのはマリア・サラマンディーネという赤毛の美少女。マリアは支配魔術でロウエンを下僕にしようとするが失敗し、逆にマリアの方がロウエンの下僕になってしまう。元の場所へ戻ろうとしたロウエンは知る。そこはロウエンがいた時代から2000年後の未来であり、そしてロウエンが封印した《吸血鬼》の魔王が復活し、人類が滅亡の危機に瀕した世界だった。
元の時代へ帰還する手段を探すため、ロウエンは転校生としてマリアと共にクレシェーナ魔法学院に通い始める。それも魔術の研究という名目で、女子寮のマリアと同じ部屋で同棲同然の暮らしをはじめるのだから、ちょっとどころではなく実にうらやましい。
転校早々、黒いローブ姿のロウエンは、他の生徒から奇異の目で見られ、ときには嘲笑の的にされる。
主人公、ロウエン・カフ・エグゼンプリオ
それもそのはずで、ロウエンが飛ばされた現代では、科学の産物である演算処理装置を用いて詠唱を全自動化した《現代魔法》が主流。魔法陣を描いて呪文を唱える手間のかかる《古代魔法》は、すでに研究も途絶えた時代遅れの魔法だった。
そんな《古代魔法》を好き好んで使う変わり者は、これまで《現代魔法》が使えずに落ちこぼれと呼ばれていたマリアしかいなかったのだ。
時代遅れの《古代魔法》を使うロウエンを快く思わない生徒も多く、ついには《現代魔法》の優等生・キュリオとロウエンが決闘することになる。
決闘を観戦していた誰もが《現代魔法》の優位性を疑わず、敗れるロウエンの姿を思い描いた。しかし、周囲の予想に反してロウエンは現代科学を取り込んで発展させた新しい《古代魔法》を編み出して圧倒的な勝利をおさめる。
勝者でありながら偉ぶることなく、その後も固定観念にとらわれない柔軟な発想で現代の常識をいくつもうち破っていくロウエンの快進撃に胸がスカッとする。
ロウエンの改良によってマリアも《現代魔法》を越える魔法を使えるようになり、落ちこぼれと見下していた周囲の見る目も変わっていく。そしてロウエンのことを次第に意識するようになっていく。ロウエンがスーパーヒーローのように悪役を退治するだけではストーリーも単調になりかねないが、未熟ながらも懸命に努力を重ねるマリアの成長に声援をおくりたくなる。主人と下僕であるが、師匠と弟子のようでもあり、付き合いはじめた男女のような初々しい関係が甘酸っぱい。
しかし、生真面目で鈍感なロウエンと意地っ張りでプライドの高いマリアでは、素直に恋愛関係が進展するはずもない。同じ部屋に住んでいるのに、いつも気持ちがすれ違ってばかりの2人の仲が焦れったくて身悶えしそうになる。
もちろんのことながら、恋愛要素だけでなく、1巻から強大な《吸血鬼》たちとの壮絶な戦いや、本年2/2に発売されたばかりの新刊2巻では人類の組織間の争いなど、徐々に世界観やキャラクターの輪を広げながら、人知を超えた超魔術が飛び交う魔法バトルが繰り広げられる。
落ちこぼれといわれた時代遅れが最新鋭を凌駕する、時代遅れ無双をとくとご覧あれ。
レビュアー
ライトノベル感想サイト『ラノベ365日』の管理人。これまで約1000冊以上のライトノベルのレビューを掲載。主にラノベ・アニメ・ゲーム関連でのライター活動中。キュレーションサイト『ダ・ビンチニュース』でもブックレビューを連載中。宝島社『このライトノベルがすごい!』シリーズではweb情報発信者として参加。いつも若手・新人作家さんを応援しています。