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2026.10.29

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ストレスにツケ払いなし! 終電後の歌舞伎町で深夜メシを喰らう…『みいちゃんと山田さん』グルメスピンオフ!

まさか、あの店長が主役になるとは思いませんでした。
『みいちゃんと山田さん』(以下、みい山)を読んだ人なら、新宿・歌舞伎町のキャバクラ「Ephemere」の店長を覚えているはずです。はげ頭に眼鏡、蝶ネクタイのおじさん。トラブル続きのみいちゃんを雇い入れたのもこの人です。とはいえ物語の中心はみいちゃんと山田さんで、店長はモブキャラもいいところでした。
その店長を主人公にしたのが『新宿解消録テンチョウ みいちゃんと山田さん外伝』です。
売上のプレッシャーに理不尽な客、トラブル続きのキャスト。表向きは穏やかでも、内心は不満だらけ。店長のストレスはいつも限界寸前。そんな店長が終電後の街に出て、深夜メシでその日の疲れを清算していくグルメ+α漫画です。
1話は本編で見た、みいちゃんがグラスを割る場面から始まります。みいちゃんを追っていた目線が少しずつ店長へ移り、背景にいた人の顔にだんだんピントが合っていく。この入り方でまず吹き出します。原作のモブもいいところだった店長が、こんな脚光を浴びる日が来るとは。

続いて出てくるのが、本編の冒頭を完全にオマージュした「これは店長がストレスを解消するまでの12か月のお話」という見開きです。本編を読んだ人は、この一文で少しぎょっとしてしまうかも。
本編は「みいちゃんが殺されるまでの12か月」を描いた物語ですが、結末を知ったいま、この構図で横たわる人物を見ると、えっ、えっ?という気持ちになってしまいますが、たとえモブっぽくても立場を変えれば物語が存在しますからね……。

作画は『犯人たちの事件簿』の船津紳平先生

船津紳平先生は『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』で、金田一シリーズの犯人たちの苦労をギャグに仕上げた作家です。前科?いえ、功績です。シリアスな原作の仕掛けを借りて笑いに変えるのはお手のもので、本作でも本編の「12か月」を店長の深夜メシに置き換えています。流石すぎる仕上がりです。
みい山を読んだ人は、本編での店長のふるまいも知っています。だからストレスまみれの姿を見ても、素直にかわいそうとは思いきれない。その居心地の悪さまで笑いにしてしまうところも、犯人たちの事件簿と同じ作りです。そして亜月タッチの再現もすごい。みいちゃんが降臨して走り回っています。
さて、この作品のテーマがストレス解消です。そしてストレス解消といえば、まずは食べること。そして後先考えずたくさん食べること。できればいいものを。であろうと思います。店長もすき焼き、餃子、カレーと、仕事終わりの空きっ腹に入れたいものを次々に食べていきます。
高い肉の値段に一瞬ひるんで「疲れた日こそ奮発する」と自分に言い聞かせるところなんて、勤め人としては身に覚えがありすぎます。肉を焼いて卵を溶いてくれる店員さんに、おふくろの姿を重ねたりもします。カレーの回では最近太ってきたのを気にしていて、それでも行ったれと突撃するのも身につまされます。

また、新宿・歌舞伎町あたりに行ったことがある人なら「これ、あのお店がモデルかな?」という場面がちょこちょこ出てきます。1話のすき焼き店「みいくら」も、看板の雰囲気や名前の響きでピンとくる人がいるはず。
すぐに思い浮かばなくても、検索すればおそらく当たりがつきます。歌舞伎町ならでは?の店も混ざっているので、くたくたの夜にどこで何を食べるかのガイドブックとして読んでも「なるほどね」となります。
夜の歌舞伎町らしいピンクな話や大人向けの話題も出てくるので、電車で読むときはちょっとだけ周りに気をつけてください。

原作の副読本として

本作には本編の小ネタがたくさん練り込まれていて、本編の裏でこんなことが起きていたのか、という話も挟まります。ゲームで言ったら、本編をクリアしたあとに遊ぶサブストーリーのような読み心地です。そのため本編を読んだ人ほど拾えるネタが増えていきます。3話では、その場にいないみいちゃんが話しかけてくる「イマジナリーみいちゃん」に店長が振り回されます。笑っていいのか迷いつつ、やっぱり笑ってしまいました。
本編はみいちゃんと山田さんの目線で進むので、店の内情や店長の事情はほとんど描かれていませんでした。本作では、あの1年のあいだ店長がどんな夜を過ごしていたのかがわかります。本編が完結したあとにこういう形で読めるのはうれしいですし、面白い取り組みだと思います。
みい山を読み終えて少し寂しくなっている方、歌舞伎町の夜の空気が好きな方、仕事終わりの一食に救われたことのある方におすすめしたい1冊です。

レビュアー

宮本夏樹

静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。

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