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2026.02.09

レビュー

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タバコ!残業!暴力!! 狂乱の“平成”に転生! そこは異世界ではなく喧騒とハラスメントの時代!

まだこの国の労働時間が“無制限”だった頃

平成(特に90年代)にバリバリ働いていた人に、当時の話を聞くと、ほぼ100%「今じゃ考えられないけどね~」のような補足が入る。このエクスキューズを入れておかないと、とんでもないヤツだと思われかねない……と心配しているかはさておき、彼らの語るエピソードはだいたい大変そうで、よくよく聞くとコンプラのコの字もない修羅だったりする。

その割に「もう平成なんてこりごりですよ!」みたいな恨み節は聞こえてこない。平成を生き抜いた平成戦士たちの生存バイアスや、ノスタルジーだけがそうさせているのか。ちがう気もする……なんなんだ平成のオトナって……。

ということで『平成転生』を紹介したい。「この物語はフィクションであり、登場する人物・会社、描かれるエピソードなどはすべて架空のものです」という注釈が何度も何度も(本当に何度も!)入るギャグマンガだ。
異常な部分を引用し始めたらだいたい全ページを紹介することになりそうなくらい、過激な「平成ギャグ」がひたすら投入され続ける。で、注釈もあることだし、私は本作を架空の異常事態としてゲラゲラ笑って楽しんでいるが、フィクション越しに見え隠れする「平成らしさ」は、実はリアルなんじゃないかなあと思っている。

異世界転生で平成をリクエスト

時は2042年、大手出版社・平談社の新入社員である“清水令和(しみずのりかず)”は、入社1年目で会社が倒産し、ショックでフラフラ歩いているところをトラックに轢かれて死んでしまう。そして異世界転生の女神“イセ”に「転生先を選んで」と言われる。

ここでベタな異世界転生を選ぶことだってできたのに、清水は「平成に行きたいです!」とリクエスト。
イセは絶句しているが、私は清水の気持ちがちょっとわかる。平成は異世界ではなく過去ではあるものの、まあ今となっちゃ異世界のようなものだ。イセはしぶしぶ清水を平成の平談社のマンガ編集者として転生させる。
平成4年は清水にとって50年前の世界。怒号とアルミの灰皿が飛び交い、ペーパーレスなんて言葉は影も形もない……そんな平成で、清水は何を感じるのか。
とりあえず全員の表情がただ事ではなく、
臭い。そう、タバコだ。確かに昔の映像を見るとみんなズバズバ吸っている。あと、清水はこの後めちゃくちゃ怒鳴られる。令和でもなかなか聞かないような一発退場ものの罵詈雑言は、2042年からやって来た清水の耳にも、とても強烈だったらしい。

とはいえ望んでやって来た平成。しかも清水は、実はとても大切な使命を背負って転生しているので、臭かろうが罵倒されようが平成のイケイケ編集部で働き始める。

ところがさすがは平成。清水の目に映るすべてのものが異常なのだ。
例えば仕事のタイムラインは最低でも24時間単位で刻まれている。午前0時スタートの打ち合わせは午前3時まで続き、先輩はそのまま飲み会へと消えていく。とんでもない1日だな??と思ったらこれが平常運転であり、清水が出した結論がこちら。
ああ、だからみんなの目がギラギラだったのか~!
この時代にはApple Watchないもんなあ……。そう、平成4年には生活態度をいちいち教えてくれるヘルシーな物体は存在しないし、スマートフォンもSNSもYahoo!JAPANもない。実はここに「平成らしさ」の決め手があるんじゃないか。『平成転生』の、とてもじゃないが文章にできないような事態を読んでいると、だんだんそんな気分になってくるのだ。
もしも令和のお調子者が飲み会で全裸になったら、その場にいる別のお調子者がスマホでマヌケな尻を撮影し、尻画像が軽率にシェアされ、やがてグローバル展開だってありうる。なんなら生成AIであんなことやこんなことに……。こっちはこっちでクレイジーだが、平成の熱狂や喧噪とは別種の地獄だ。

マンガ雑誌の発行部数はうなぎ登りで、領収書をバンバン切って、毎日眠いが毎日楽しくてしょうがない。燃えるような平成にもみくちゃにされる清水は、はたして生き残れるのだろうか。
非常に笑えるのだが、食らった被害者は本当につらそうな異次元のハラスメントも大展開される。ちなみに令和の今も、このハラスメントはたまに観測される。清水はクレイジーにはクレイジーをぶつけるぜと言わんばかりの対抗策に打って出るが……? ひょっとしたら彼の行動は参考になるかもしれない。あと「実はこの人、平成向いてるかも」とも思った。

レビュアー

花森リド

ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。

X(旧twitter):@LidoHanamori

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