未来人チート、発動?
両角正道、46歳。彼はその日、初めて会社を無断欠勤した。理由は、妻のレイコが家を出ていったからだ。山頂の駐車場で黄昏れる彼の前に、突如UFOが出現する。そして「ひとつだけ願いを叶えてやる」という。正道は絶叫する!
聴いた? 刺さった? 魂の叫びはハートに届いたか?
俺は今まで真面目に生きてきたんだ
悪いことなんて何一つしていない
それで…
その結果がこれだよ…
だったら俺は…
コギャルと付き合う青春がよかった…!
人間とは、かくも過去に囚われる生き物なのだ。未来への希望など、彼を癒やしはしない。彼の心に空いた穴を埋められるのは“コギャルとよろしくやった過去”のみ! そして正道はタイムリープする!
’94~’95年ごろの渋谷のクラブ、大学生に若返った正道のポケットにはポケベル、フロアに流れるのはジャネット・ジャクソン、カウンターで酔い潰れているのは、既に絶滅寸前のワンレンボディコンのお姉さん。正道は、このシチュエーションを思い出す。
かくしてお姉さんにトイレへ押し込まれ、タバコ一本吸い終わるまでにイカセてみろと迫られる。しかし、今の正道は大学生時代の正道ではない。
培われた技術!
令和まで生きた経験と…
平成時代の活力!
俺は…
無敵だ!!
このセリフの素晴らしいコマをお見せしたい!
しかし素晴らしすぎて、ちょっとはばかられるのでコミックでご覧ください!
ここで正道は、ある疑問に思い至る。
「なんてあんな簡単にヤレたんだ…?」
「今の俺なら遊び放題!!」
根拠が薄い! 薄すぎるぞ、正道! ついでにいうと『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『ターミネーター』ときて、『JIN』はない! さては正道、綾瀬はるかのファンだな! ……ん? よくよく考えると、『ターミネーター』も未来人がモテるって話じゃないぞ。あやうく正道のペースに巻き込まれるところだった。
タイムリープして、いきなりいい思いをして、根拠のない確信を得た正道は、次こそコギャルといろんなことをしたいと胸アツになるのだった……。
艶笑×90sカルチャーにニヤニヤ
本作の著者・五十嵐健三は、漫画『匿名の彼女たち』で、情感たっぷりに日本各地の性風俗を描いた名手。そんな著者が、転生やタイムリープもの全盛の時代に繰り出した奇手が、“タイムリープコギャルモノ”ともいうべき本作。そして、この漫画を魅力的にしているものが二つある。ひとつ目は、正道と同世代なら「なつかしー!」と思うこと間違いなしのネタの数々だ。
これで稼いだ友達にたかって、よくお酒飲んだなぁ……。
それから、この時代の出会い系といえばツーショットダイヤルかテレクラ。
「いやいや、電話機の上に割り箸を置いて、受話器のマイク側を浮かすようにしてですね、ランプがつくと同時に~」みたいなウンチクを語りたい人いるだろうなぁ。
そして、デートでもつ鍋!
あんなにニンニクたっぷりの鍋を、カップルで食べて喜んでいたなんて、今となっては信じ難い。「このもつ鍋、食べてもあんまりニンニクの匂いが残らないんだって」なんて言いながら、十分臭かったですけどね。懐かしさしかない。
最後に、個人的に一番好きなネタを紹介させてください。
くだらねぇ! もう、くだらなさに大爆笑ですよ。ありがとう正道、君の一言で「さよなら、オザケン」って言えるよ。グッバイ、青き日々。
もうひとつの魅力は、じわんと滲む叙情的な艶笑エピソードだ。たとえばこんな話。渋谷の路上で酔い潰れたギャルから、財布を盗もうとしているスリをみつけた正道(こういうシーン、雑誌『FRIDAY』の街ルポ写真でよく見たよね)。お金を盗まれて困っているギャルに、正道はタクシー代を貸してやる。するとギャルが言うのだ。
ラストパンティーに漂う空気。これをブルースと呼ばずして、なにがブルース?
渋谷の街なのに、BGMはBOROの『大阪で生まれた女』が流れている気がするのは俺だけ?
今の時代に照らし合わせれば「なに? 気持ち悪いんですけど」「どういうコンプラ?」って話かもしれませんけどね、あの時代のパンティにはなにか特別な意味があったような、なかったような(多分ない)。
さて、効果があるのかないのかよく分からない「未来人チート」能力を活かして、楽しそうな正道だが、第1巻においてはコギャルと「いろんなこと」はできていません。そんな彼が、今はなき渋谷東急屋上で出会った「どストライク」のコギャル。
彼女の名前はレイコ。レイコ? ……?
家を出てった妻のレイコ!
風雲急を告げる第2巻は6月発売予定。乞うご期待!
レビュアー
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。