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2026.10.22

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この女、ただの筋トレ女子にあらず──筋肉に囚われし獣なり!! 筋肉賛歌コメディ『MADE IN YAMATO』

筋肉のために生きて筋肉のために死ぬ

目的と手段の住み分けができていると、この世のたいていの営みはキレイに収まるが、目的と手段がグチャグチャに混線すると様子が一気におかしくなるし、破滅の匂いがしてくる。

『MADE IN YAMATO』のヒロイン・“信濃川大和”は、人生のリソースの大半を費やして「筋トレ」をする。筋トレ、いいこと尽くしですよ! 肩こりも解消するし、ちょっと重たい物を持っても体がグラつかない。

しかし大和の場合は「健康」とか「美容」とか、そういう次元の動機ではなく、脳の奥底で筋トレを選んでいる。で、このまま放置していたら、この人はいつか大変なことになるんじゃないかとドキドキしてくる。
破滅的だ。雄叫びの「ぐ」と「う」とビックリマークにハートが付いているあたりが特に危うい。苦痛が快楽で快楽が苦痛で、といったところだろうか。彼女は筋肉のために生きているし、つまり、筋肉のために死にそうになっている。
仕事そっちのけというか人間そっちのけ。筋肉とその持ち主(大和)の主従が逆転し、彼女はもはや筋肉の下僕。

ただ、いちトレーニーとして本作を読むと「すごくわかる……」と黙ってしまう瞬間が多々ある。

新しいマシンで自分を壊したい!

大手製菓会社に勤める大和は、出社前と退勤後の1日2回、ジムでトレーニングに励んでいる。
おかげさまでこのカラダ! 朝からホカホカで強そう。でも大和のトレーニングは夜が本番で、朝はあくまでウォームアップなのだという。ちなみに彼女のウォームアップは約165kgのフルスクワット。個人的には、この種目と負荷は男性トレーニーでもハードだと思うが、トレーニングには個人差があるし、本人がそれをウォームアップと呼ぶなら周りは「そうなんですね」と言うほかない。

そんな彼女の夜のお楽しみはコチラ。
ジムに導入された新型スクワットマシン。拷問器具か?と見まがうようなビジュアルだが、大和の高ぶりが私にもよくわかる。新しいマシンが入ると「どんな創意工夫が凝らされているのかな」とワクワクするのだ。

こちらの描写もとてもよくわかる。
コンビニでトレーニング前の栄養補給。大和が錬成する「私のエネルギー食」は特殊仕様すぎるが、コンビニはトレーニーの愛すべき補給所だ。とっとと仕事を終わらせてジムに行くつもりが残業が発生して「嘘……」となるのもトレーニーあるあるで、出張先や旅行先にジムがないと「困った」となるのもわかる。

ということで、大和の日常のあれこれは、冗談でもなんでもなく、筋トレ的には真面目な話だ。ただ大和の場合は常軌を逸したレベルまで突っ走ってしまっているので、出張先にジムがないと「困った」どころじゃ済まず、なんだか奥歯が割れそうなくらい歯ぎしりをして解決策をひねり出す(とんでもない方法でその課題をクリアしていた)。

死ぬのはだめだぞ

彼女が突き進む先には、「死」以外の何が見えているのだろう。
部長からも死を心配され、自分でも「(ジムに)死にに来てるんですっ!!」と言ってはばからない。「今日は肩を殺すぞ」などと部位を追い込むトレーニーは多いが、大和は生命そのものを追い込んでいる。

さて、筋肉と仲良しすぎるあまり筋肉に取り憑かれ筋肉に殺されそうな女・大和は、ほかの人間と仲良くできているのか。
生意気&アホな部下に「デカい」「ゴリラ」などと呼ばれてうれしそうにしている。大和は基本的に温和で真面目な人間なので、職場に波風を立てることはない。穏やかで好ましい社会人だと思う。ただ、こと筋肉がからむと空気が一変する。
相手をちょっと触るだけで体脂肪率や筋肉量を把握したり、筋トレに興味を示した同僚の“花ちゃん”と一緒にトレーニングをして追い込みまくったり。

さらに、筋トレをたしなむ者が大和にうかつに近寄ると大惨事が待っている。
「筋トレをしています」と言うと「(ベンチプレス)何キロ?」とスグに聞いてくる人間は実在するし、99%ロクデナシだと思うが、大和はそんなロクデナシを無邪気に吹っ飛ばす。

そんな筋肉クイーンの大和にも「天敵」が存在する。もちろん筋肉関連の天敵だ。
通常の人体からは聞こえなさそうな異音を発した大和は、この後もっと壊れて絶体絶命のピンチを迎える。彼女の抱える業の深さがよくわかるエピソードだ。筋トレ経験者ならば天敵の正体がなんであるか目星が付くかもしれない。

絶好調でも絶不調でも死にそうなのは同じで笑ってしまうが、ここまで取り憑かれてしまったらお手上げというか、読んでるこっちはもはや応援一択……という気にさせてくれる。限界突破の筋肉マンガだ。

レビュアー

花森リド

ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。

X(旧twitter):@LidoHanamori

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