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2026.09.02

レビュー

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ポンコツだけど天才スラッガー! プロ野球選手を夢見る女子高生の野球譚『ゆーあーすらっがー』

これが令和、新時代の野球漫画!

世の中にたくさんある野球漫画。高校野球やプロ野球、さらにはメジャーリーグなど舞台となる場所も様々です。レジェンド作から話題の最新作まで、読者一人ひとりに名作があるこの競争率が高いジャンルに、新たな注目作の登場です。

普段はポンコツ、野球は抜群のギャップがエグい! 高校野球界ニューヒロイン爆誕

本作は高校野球をモチーフに、とある男女の幼なじみが奮闘する姿を描いています。ひとりは魚沼(うおぬま)ワコ、女子高生。もうひとりはタイジ、ガタイのいい男子高校生です。
料理は苦手、預かったカギを初日になくす、テストは赤点ギリギリなど、ポンコツ系女子のワコ。そんな彼女をそばで支え、料理をカバーし、なくしたカギを探し、勉強を教えているのが、タイジ。この関係性でピンときた人もいるかもしれませんが、実は本作における野球の主役はワコです。甲子園常連校の名門・帝王高校野球部1年生。幼なじみであり、時にマネージャーのようにあれこれ気を配るのが、タイジ。ちなみに彼は美術部員です。

「女子に野球は無理だろ」「話題作りか?」という生徒たちの会話を聞きながら、小学生の頃から、将来の夢はプロ野球選手だと公言していたワコのことを回想するタイジ。女子であるうえに、ふだんのドジっぷりからもその夢を笑う人ばかりだったけれど、ワコの野球の才能と圧倒的な練習量を知るタイジは、先ほどの会話の主たちにこんな反応をします。
そして最後に、「俺の自慢の幼なじみの名前です」で〆る。タイジのワコへの絶対的な信頼が伝わるシーンです。ちなみにワコの具体的な将来の夢は「プロ野球選手になって弱いライオンズを日本一に導くこと」だそう。石毛・辻・秋山・清原・デストラーデ・伊東に、工藤・渡辺久・郭泰源・潮崎・鹿取の常勝軍団時代を経て、長らくAクラスに君臨し、2018年・19年には山賊打線でリーグ連覇した、あの頃を知るライオンズファンの私としては、涙なしには読めないセリフでした……。

周囲を変えていくワコと彼女を信じるタイジ、最強の幼なじみコンビ

高校野球×幼なじみという組み合わせには偉大な大先輩作品が存在しますが、本作におけるふたりは、ラブというよりも、お互いを絶対的に信頼する友情に重心を置いている印象です。

美術部員であるタイジが、絵画コンクール課題作品のモチーフに選んだのは、ワコが素振りをする姿。
制服姿でバットを構える姿に、「クラスの見せ物になっている」とタイジに忠告する女子生徒の心配が的中。ワコがスイングした際にひらりと舞うスカートを見て、興奮する男子生徒も。

ラブが主軸であれば、ここでタイジが焦ってワコを制止したり、男子生徒につっかかったりする場面も想像できますが、彼は慌てません。それどころか、ワコに対して甲子園決勝、サヨナラの場面をイメージしてもう1回振ってくれ、と打診します。時間が一瞬止まり、緊迫の空気。そして――
性的あるいは邪念まじりだった視線が、ワコの本気のスイングに圧倒される野球視線へと変化。タイジはこうなることがわかっており、つまりワコの野球の才は、邪念を凌駕すると信じていたわけです。

また、ワコと同じ野球部1年の樋口ヒサシが登場する場面。背番号をもらった(=ベンチ入り決定)ワコに対し、ベンチ入りできなかった彼は納得がいかない様子。
某野球ゲームの選手データを模したわかりやすい描写。某ゲームをプレイする私の心に大ヒットです。かつ樋口はミート、守備力、捕球ではワコに負けていることを認めているのも面白い。

そんな樋口が、練習オフの日に用事があって学校へ行くと、自主練をするワコの姿が。
さらにこの後、チームのエースや4番、レギュラー組も続々と集まり、「魚沼に負けてらんねえよなぁ」と練習を始める様子に呆然とする樋口。選手データには反映されない、ワコの「おそるべき練習量」が名門野球部の先輩たちを動かし、その姿に感化され、樋口もまた、オフ返上で自主練を始めることに。

たったひとりの女子部員が、甲子園常連校に変革をもたらす様は痛快そのもの。クラスメイトや野球部選手にマネージャーなど、ワコを取り巻く様々な人たちが、彼女の姿勢や才能に影響を受け、彼女に対する見方、そして自分自身をも変えていくのです。

野球<日常!? キャラクターの魅力を丁寧に描く1巻にある“配球の妙”

本作は高校野球漫画ではありますが、1巻においては全編野球シーンというわけではありません。

高校での料理の授業やクラスの空き時間、あるいはコンビニでの買い物シーンなどが描かれており、いわゆる「高校野球」といったらこれ!という描写ばかりではないのが、本作の特徴。

中学時代はこういう選手で、得意球はこれ、打撃の特徴はこう、チームを引っ張るキャプテンシー、あるいは孤高の天才選手……というような、球児としてのあれこれを描くよりも前に、ワコとタイジという幼なじみふたりの関係性やキャラクターを引き出すエピソードを多く配しています。

それは本作が、他校のライバルたちとしのぎを削って甲子園を目指す高校野球とは少し異なり、ワコを中心に、常に彼女を「自慢の幼なじみ」と呼ぶタイジを筆頭に彼女の仲間たちとの日々を描く、野球をモチーフにした青春漫画だからかもしれません。

高校野球漫画ではあるけれど、高校野球だけではない。野球の前に個人があり、クラスメイトや部員たち、そして家族がいる。そんな日常における、本作の大きな題材が「高校野球」なのだという構図を、読者が最初に触れる1巻で存分に描いているのです。

ワコ、そしてタイジというキャラクターとその関係性を丁寧に描写し、彼女たちが与える周りへの変化にも光を当てる。まさしく、絶妙の“配球”で投手ならぬ読者を導いていく。

本作第1話のラストは、タイジのこんなモノローグで締めくくられます。
「これは俺の自慢の幼なじみ 魚沼ワコと俺たちの物語だ」

お互いがお互いを「自慢の幼なじみ」と称えるふたりが紡ぐ、愛すべき登場人物たちの野球と青春の行く末を、試合終了までしっかり見届けたいと思います!

レビュアー

ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。

X(旧twitter):@hoshino2009

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