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2026.08.29

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殺しつくすまで終わらない……半壊した東京で前代未聞の異能力バトル『ゴールデンファントム』

「目が覚めると××だった」という設定から始まる作品は珍しくないが、こんなに「××」の部分が豊富だと圧倒される。「家族の姿が消えていた」「特殊能力を得ていた」「世界の条理が一変していた」等々、どこから手をつけていいか分からないほど難題が噴出し、しかも語りのスピードは一切落ちない。むしろ加速する。
カオスゲーム』の作者・山嵜大輝による最新作は、謎とスピード感に満ち溢れた導入部で読者を否応なく異世界へと連れていく。そのストーリーテリングをさらに加速させるのが、主人公・朝日奈慎悟の「嘘がつけない」というキャラクター設定だ。相手の嘘もすぐ見破り、誰かに嘘をつく自分も許せない。最短距離で真実に辿り着こうとする彼のがむしゃらさが、ドラマを力強く動かしていく。
慎悟は愛する妻子と遊園地に遊びに来ていたとき、たまたま会った傷だらけの男をかくまう。「30分後にこの遊園地は地獄になる」という彼の言葉に、嘘のなさを感じた慎悟は、「君の肉体を少しの間、貸してほしい」という途方もない願いを一瞬だけ聞き入れる。そして、目覚めるとそこは地下鉄の線路、そして血まみれの死体の山。命からがら地上に這い出た慎悟を待ち受けていたのは、想像を絶する変容を遂げた世界だった……。映画『ザ・キープ』(1983年)に登場した魔物の封印を思わせる、巨大なモニュメントが打ち込まれた都市の光景が、異様な迫力を放つ。
慎悟は額に「ネジ」を埋め込まれ、まるで「ネジ」のように体を変形できる能力を身に付けていた。時にアクロバティックな瞬間移動を可能にし、また時には相手に致命的ダメージをも与える特殊能力が、極めて鮮烈なビジュアルインパクトを生んでいる。ヒロイックというよりはホラー的、怪人的なギミックであるところも面白い。
さまざまな設定をたたみかける導入部はまるでアドベンチャーゲームのようだが、主人公を衝き動かすモチベーションは不良漫画のごとくエモーショナルで熱い。暴力に溺れていた自分を立ち直らせてくれた妻と、自分を責任感ある大人に成長させてくれた娘……愛する家族との生活が、彼を「真人間」として支えていることが(必要最小限のページ数で)綴られる。しかし、本作は惜しげもなく彼女たちを途中退場させ、最大かつ不在の救出目標として掲げたまま、異形のバトル漫画へと大きく潔く舵を切る。ゆえに物語の核心にあるのは「一瞬でも守るべきものを手放してしまった男の悔恨」であり、そのエモーションが本作のドラマに強度を与えている。悲痛な状況にありながら、主人公がウジウジしないところもまた魅力だ。
異能の敵キャラ「悪霊(ツクモガミ)」たちが続々登場してくる展開にも手に汗握るが、主人公と共闘する勢力「精霊(ヤオヨロズ)」もまた謎に満ちている。慎悟の前にパートナーとして現れる謎の戦闘美女・ソフィーは、彼の日常生活とはまるで縁のなさそうな「家庭の匂いが一切しない」キャラクターなのも秀逸である。
異能者集団であるらしい「精霊(ヤオヨロズ)」のなかでも、さらにイレギュラーな存在である慎悟と、着任間もない新人であると名乗るソフィーのコンビは、のっけから型にはまらない活躍を期待させてくれる。闇の世界に生きる者たちが繰り広げる熾烈な戦いのドラマとしては、菊地秀行原作、川尻善昭監督の傑作アニメ『妖獣都市』(1987年)も彷彿させる。
ファンタジーとリアルのあわいで、ハードボイルドな匂いも漂わせながら、今後も主人公たちの快進撃は続くに違いない。読者を気持ちよく予想外の領域に導いてくれる、楽しい予感に満ちた快作だ。

レビュアー

岡本敦史

ライター、ときどき編集。1980年東京都生まれ。雑誌や書籍のほか、映画のパンフレット、映像ソフトのブックレットなどにも多数参加。電車とバスが好き。

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