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2026.05.17

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最も演技しているのは誰? 演劇上演中の転落死──真相を巡る群像劇『少女マクベス』

女子高の演劇部を舞台にした漫画といえば、映画化もされた吉田秋生『櫻の園』が思い浮かぶ。上演作品はタイトルどおりアントン・チェーホフ作の『桜の園』だったが、本作の場合は一目瞭然、ウィリアム・シェイクスピア作『マクベス』を上演する少女たちの物語が描かれる。権力と支配、愛憎を巡る血なまぐさい闘争劇にならって、ここでは「死」「殺意」「裏切り」「疑惑」等に彩られたストーリーが展開する。
原作は双葉社から2024年に刊行された、降田天(プロット担当の萩野瑛と、執筆担当の鮎川颯による共作ユニット)の同名小説。本作はそのコミカライズであるが、漫画独自の改変も随所に加えられているとのこと。

コマ割り、アングル、キャラクターの躍動感などに劇的効果がほとばしる画面構成には、ビジュアルで魅せる媒体ならではの醍醐味が溢れている。原作読者にも未読者にも、それぞれ新鮮なインパクトを与えるはずだ。
多感な十代のころに、魂を削ってでも打ち込めるものに出会ってしまうことは、幸福であり不幸でもある。舞台演出家として並外れた才能を発揮しながら、人を人とも思わないような態度で俳優や裏方を人形のごとく操り、その尊厳を踏みにじり、結果として傑作を産み出してみせる少女・設楽了。独自の新解釈による『百獣のマクベス』公演中、謎めいた死を遂げた彼女が、本作のミステリーの中心となる。それは本当に不慮の事故死だったのか? あるいは何者かの悪意が招いた「起こるべくして起こった結末」か?
物語の主人公となるのは、了の突出した才能を前に嫉妬と敗北感を刻みつけられた劇作家志望のヒロイン、結城さやか。そして、すでに物語冒頭から存在していない了の死の真相に迫ろうとする新入生・藤代貴水。ある鬼才の死を発端としたミステリーとして幕を開けつつ、思春期の愛憎、不在の切なさをはらんだ、異色のバディ探偵ものとしての味わいもある。漫画では、ふたりの体格差や生き生きとした動作までも魅力的に描かれ、些細な日常的描写にも目を見張る。
「三人の魔女」という難役を与えられた少女たちが、了のアドバイスにより、文字どおり劇的に開花するシーンもなかなか強烈。これも漫画ならではの名場面といえるだろう。こういうケレン味はアニメや実写で再現しようとしても、なかなか同じテンションでは真似できない。
また、「いつまでも天才に追いつけない」主人公さやかが、すでにこの世にいない了の幻影に翻弄され続けるサブストーリーは、ピーター・シェーファー作の名戯曲『アマデウス』も連想させる。稀代の天才作曲家モーツァルトに対し、殺意と表裏一体の嫉妬を育む「凡庸な」同業者サリエリの物語は、屈折したマーダーミステリーでもあった。直接的にか間接的にか、主要登場人物の誰かが了の死に関わっていたとしても、なんら不思議はない。それでも我々は、切なさの波にはただ呑まれるよりほかに術がない。
そう、本作はどのページにも濃密かつ真に迫る切なさを湛えている。十代のうちに圧倒的な才能の差に打ちのめされ、自分の平凡さとことあるごとに向き合い、それでも未来に向かって歩み続けなければならない少女たち。そのうえ、追いかけ続けるべき存在だった天才の姿は、もうこの世にない。そんな残酷な状況で、沈痛な思いを抱えながらも「否応なく輝いてしまう」若者の特権も、本作はしっかりと視覚化している。
『櫻の園』がそうだったように、本作もまた優れた青春ドラマの香りがする。計算された構図と空気感表現が、切なさに拍車をかける。愛と死に彩られたミステリーとしても、思春期女子の学園群像劇としても、あるいは名もなきアーティストの初期衝動を描く成長ドラマとしても、読者の心をつかむ注目作である。

レビュアー

岡本敦史

ライター、ときどき編集。1980年東京都生まれ。雑誌や書籍のほか、映画のパンフレット、映像ソフトのブックレットなどにも多数参加。電車とバスが好き。

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