本作は、イジメが2000日間も0件だという日車(ひぐるま)高校が舞台。そんな理想的ともいえる高校にて、ある生徒が不慮の死を遂げるのですが、これは果たして事故死なのか、それとも……!? という疑惑からストーリーが動き出します。
本作の主人公は1年A組の清和絆(せいわつなぐ)。
イジメ撲滅啓蒙企画として、美術部にイジメをテーマのアート作品を依頼することになった清和は、中学時代にクラスメイトでもあった美術部員・四条かほりに声をかけます。中学ではイジメを受けていたという四条に「イジメを止められなかったことを後悔している」と語る清和。
素晴らしい教育の下、生徒たち自らの意志でイジメを根絶しているのではなく、徹底監視によって「イジメができないよう」システム化されている、と表現したほうがよさそう。これが異常であることに、まだ清和は気づいていません。
しかし、そんな彼でも否応なく「おかしい」と思わされる出来事が起きてしまいました。
清和の振る舞いを「いい人アピール」と疑っていた四条。本レビュー冒頭のコマからも伝わる、何かに心酔しきっている人特有の、どこか危うい匂い。しかし、ヘアドネーションや献血、ゴミ拾いなど、人のために……と目を輝かせている彼を見て、「ただのいいヤツ」だと理解するに至ります。そう、清和は恐ろしいまでにピュアな子だったのです。そして、四条は、イジメをテーマに絵を描くという彼の依頼を承諾。
何日もかけて間もなく完成、というところまでたどり着いた一枚の絵。
四条はイジメを受けていた? それを確かめるべく本人に電話をかけるも繋がりません。そして次の瞬間、学校の屋上から転落する四条を目撃する清和。
これは、イジメによる自殺なんじゃないか。大きな疑念が頭から離れない清和。
信じていたものがまやかしだったのでは、と勘づいた清和は、協力者と一緒に、学校が隠蔽していると思われる事実を暴くため、動き出します。清和と行動を共にする意外な人物や、四条の言動に隠されたいくつかの違和感、そして鉄壁な監視体制をどうやってかいくぐるのか、清和たちのミッションにも目が離せません。
ある目標を達成するため、その達成に不都合な事実をあえて見逃す、あるいは捻じ曲げる(解釈を変える)、報告を握りつぶす。イジメの可能性、という段階においては徹底排除しながら、いざイジメが明確な形で顔を出すと、ないものとして振る舞う。昨今、世間を騒がしているニュースにもこうした内容は多々あります。臭い物に蓋をする、臭いと指摘する存在を弾き出す。学校が認めなければ、イジメはないものとする。それが日車高校の誇る「イジメ0件」。
「認めなければ、ないものと同じ」という状況は、実はこの何十年にもわたり、社会のあちこちで起こっていたことかもしれません。イジメを題材にした社会派サスペンス。悪者は学校か、イジメた生徒か、それとも──!? これからいったいどんな謎が明かされていくのか、これからの展開に期待大です!