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2026.05.14

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世界のippatuが放つ、封印少女×イケメン僧侶のラブコメ西遊記『猩猩姫』

アホゥでかわいい猩猩姫

物語は、なにかワケありっぽい“ぶたくん”が、養豚場から逃げるところから始まる。どこへ逃げても豚を見れば「食ってしまおう」という人間ばかり。そんな逃亡の末に、ぶたくんは〈なにかが封印された “おかしげ”な場所←実は「仙境」〉に迷い込む。耳をすますと、若い女の声……
なんでもするから助けてくれ!
声の主は、すっげー悪臭を放つ毛むくじゃら。そいつは記憶をなくしていて何者か分からないけど、どうも封印されているのはコイツらしい。封印されるなんて罪人に決まってる。関わったら後がヤバい。それに、ぶたくんに封印を解く力はない。
と、そこにフラリとお坊さんが現れる。お経をムニャムニャ唱えると、あらま、封印が解けまして、髪ボウボウの女の子が現れる。それを哀れに思ったお坊さん。
あなたにはこれをあげましょう
と「緊箍児(きんこじ)」なるもの(シュシュ?)を着けてあげると……
あーらま、かわいい女の子じゃありませんか!
髪は女人(にょにん)の命ともいう
とってもかわいいよ
とお坊さん。
ビジュいいじゃん!
からの……
ズキュ〜〜〜〜ン!

記憶をなくしたままでは不便だろうと、お坊さんが名前を付けてくれた。
見ると貴女(あなた)は猿のご婦人のようですね
古き神話で猩猩という猿の神様がいたという
そこで
猩猩姫という名はどうでしょう
そして毛むくじゃらの女の子は、“猩猩姫”を名乗ることになりました、とさ。

本作は、中国三大奇書のひとつにして、漫画・アニメの『ドラゴンボール』にゲーム『黒神話:悟空』など、みんな大好き『西遊記』の物語。語り直し尽くされた物語……と思いきや、女の子設定の孫悟空に、イケメン玄奘。「そうか! その手がありましたか!」と膝を打つ設定。作者は、放射線で人が住めなくなった「旧日本」を舞台にしたSFバトル・アクション『虎鶫』を描いたippatu。『虎鶫』では、鳥足を持つ半人半鳥の「つぐみ」というキャラクター(めちゃくちゃ魅力的だった!)が登場するが、本作は猩猩! これでまた日本全国、いや世界中のケモナーたちを虜にするに違いない。

猩猩姫が玄奘に「ズキュ〜〜〜〜ン!」となったその直後、封印が解かれた彼女を抹殺するのがお役目のバケモノ(エイリアン+ゲジゲジ+阿修羅像的なイカしたヤツ)が襲いかかってくる。記憶といっしょに戦い方も忘れている猩猩姫は、バケモノにいいようにやられてしまう。そこで、ぶたくんがナイス・アドバイス!
姐さん!
棒!
キンコボーくん
呼んでみるぶひ!
おーい!
キンコボーく〜ん!
ドォ───ン!
飛んできたキンコボーくんが、バケモノの腹に風穴を開ける!
本名「如意金箍棒(にょいきんこぼう)」、俗に「如意棒」と呼ばれるキンコボーくんは、猩猩姫のペットなのだ!

こうして、ぶたくん、玄奘、猩猩姫withキンコボーくんとメンツが揃ったところで旅が始まるかと思いきや、
と、あっさりフラれてしまうのだが、猩猩姫は諦めない。“常に前向きなギャルマインド”の彼女は、玄奘を追いかける!
ぶたさんは言う。
姐さん・・
それ・・・・・・
ストーカーっていうぶひょ・・
と、ここまでが第1話。
誰もが知る「西遊記」の物語ではあるけれど、これだけぶっ飛んだ設定をきちんと説明しながら、ケレン味たっぷりの見開きコマが8つもあって(16ページ!)、キャラがとても魅力的! なんというか……、もう神技レベルなのだ。「漫画の第1話は、完璧でなければならない」と言われるらしいが、ここまで仕上がった、レベルの高い第1話が読める作品なんて、年に数本だと思う。

そして、ぶたくん(a.k.a 猪八戒)、猩猩姫(a.k.a孫悟空)、玄奘(a.k.a三蔵法師)が揃ったところで、読む方は「残るは沙悟浄だ」と思うじゃないですか。でも物語は、そこに直行せず、約1話半を使って猩猩姫がどんな女の子なのか、きっちり描くのだ。この第2話と第3話の前半がすごく、すごく、すごくいい。
封印されていた「仙境」を出て、猩猩姫とぶたくんが「地界(現世)」を訪れる。空に浮かぶ雲、胸に吸い込む空気、体を撫でる風、虫、動物、空を赤く染める夕日。そのひとつひとつに感動し、はしゃぐ猩猩姫の愛おしいこと!
そんな猩猩姫の無垢な姿をみて、ぶたくんはつぶやく。
立派なレディーに育てるぶひかね
なんだ、それは! 『プリティ・ウーマン』か! と思わせてからのオチへも見事。
ココ、是非コミックで読んでほしい。

あと、原典にある天界・仙界・地界といった世界観を守りつつ、緊箍児や如意棒といった小道具の再解釈と、地界減退効果(仙界から地界に落ちると、その能力が1000分の1になる)といったオリジナル設定が、実にうまく機能していて実に楽しい。その楽しさが、なんというか……「これ! 子どもに読ませたい!」と思わせる感じ。かといって、子ども向きを意識しているわけじゃない。誰もが楽しめる一級のエンターテインメントを目指していることに、もう好感しか抱かん! 初版なら『虎鶫』のつぐみと猩猩姫のコラボハガキも付いているから、買うなら今のうちぶひ!

レビュアー

嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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