本作の著者である港發(みなとはつ)は2025年、講談社『週刊ヤングマガジン』『モーニング』が主催する青年漫画の登竜門である漫画賞「ちばてつや賞」大賞を受賞した期待の新人漫画家。
そんな期待のルーキーが放つ本作の舞台となるのは、化生(げしょう)という、かつて妖怪変化と呼ばれていた生物が人間や家畜に対する食害をもたらしている現代日本です。この事態に対処すべく、化生対策局という公的機関が化生の駆除活動を行っている、という世界観のなかで物語は展開していきます。
新宿大化災(しんじゅくだいげさい)と呼ばれる、化生による大災害で多くの人員を失った化生対策局は、伝説の狩人と称されるマタギ・追切権蔵をスカウトすべく、局員の三廻部(みくるべ)めぐりをとある村へと派遣。その際に出会った権蔵の孫・追切(おいきり)カノカから、権蔵はすでに亡くなっていることを知らされ、めぐりは愕然とします。そんなふたりの前に突然出現したのは、人の言葉を操る化生。
化生対策局員としてとっさの判断でカノカ青年をかばっためぐり。しかし俊敏な動きで彼女の銃を奪い、何やら講釈まで垂れる余裕を見せつける化生。本作には様々な種類の化生が登場しますが、こやつは身体能力に加え知能レベルも高く、いきなりの大ピンチ、なのですが――
まさに一閃! カノカはただの青年ではありません。伝説と呼ばれた権蔵の血のみならず、その資質までも受け継いだ凄腕の“妖の狩人”だったのです。
「黙って撃てばよかろうに」という化生のセリフを抜群の切れ味でそのままお返しするカノカ、めちゃくちゃイカしてます。
この一連の展開は、めぐりが抱える「殺すことへの抵抗」という化生対策局員として致命的な問題点と、獲物を決して侮らない、カノカがもつ狩人としての大事な心構えの一端を表現した、本作の掴みとして最高な場面なのです。
めぐりには、両親を化生に殺されてしまうという悲しい過去があります。両親の敵を討つ、そのために化生対策局に入局したものの、命を奪うことへの覚悟ができていなかった彼女は、「腰抜け」の烙印とともに、現場から戦力外通告を受けてしまいました。その結果、非戦闘員という立場で伝説の狩人を勧誘する任務を請け負い、カノカと出会うわけです。
親を殺され、ずっと敵だと、悪だと思っていた化生。しかし化生対策局員として、現場で化生と対峙した時、めぐりは憎しみとは違う感覚を味わいます。
人が人を殺す際には、憎悪、嫉妬、快楽、愛、復讐、金銭等々、様々な動機を伴います。しかし化生は、食べるため、言い換えるなら「生きるため」に殺していた。実にシンプル。
生き物を殺すとはどういうことなのか。“悪い化け物をやっつける正義の人類”というわかりやすい構図とはまた違う、人も妖も互いに狩る側、狩られる側になりうるという、まさに生きるための戦いを描いているところが本作の魅力のひとつです。
不気味な妖といえども、その亡骸を調理して栄養としていただく、というのも人間にとっては「生きるため」の行動。カノカが倒した妖を食すことは、めぐりにとってもひとつの気づきになったのかもしれません。
捕食した対象の特質を得る、化生の特性が物語をドラマチックに演出
本作に登場する化生、その大きな特徴のひとつが「捕食した生物の性質を獲得する」というもの。本レビューで取り上げた化生は人語を駆使していましたが、つまりこれは「(日本語を話す)人間を食べた」ということになります。
地球上には様々な特性をもつ生物が存在します。驚異的な跳躍力をもつ昆虫や、カメレオンのような擬態スキルをもつ生き物……挙げればきりがありません。仮にそういった生物を食べれば、その能力も獲得できるというのが化生の面白くて、恐ろしいところ。さらに言うなら、能力にとどまらず、そのビジュアルを獲得するケースも。これが物語を複雑に、そしてグッと魅力的に演出していくのです。
命を奪うということに向き合っためぐりを一人前の狩人に育てるため、カノカは故郷を出て、化生対策局へと入局します。そこで出会う、あらたな局員たち。そして思いもよらない特性をもった化生たちと繰り広げる壮絶なバトル。カノカとめぐりが、個性溢れるキャラクターたちと対峙しながら紡いでいくのは、人間ドラマという土台の上に築かれた現代日本の妖怪バトルファンタジー。
登場人物たちの葛藤に心打たれるもよし、恐ろしい化生たちに心震わせるもよし、激しいバトルに心躍らせるもよし。感情豊かに楽しめる、骨太でユニークな作品の誕生です!
レビュアー
ほしのん
中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
X(旧twitter):@hoshino2009