ファンタジー作品には、勇者が登場する冒険モノや異能バトル系、あるいは異種間同士の恋愛作など、様々なカテゴリが存在します。エルフや吸血鬼が登場する本作が収まるカテゴリは、学園コメディ。現実世界にファンタジー要素が入り込む、いわゆるローファンタジーですが、日常感が半端ない。学園モノなら別に普通の高校生同士で話を展開すればいいじゃない、と思うかもしれませんが、エルフや吸血鬼が日常にナチュラルに溶け込んでいること、そして確実に存在するちょっとした違和感が、本作の大きな魅力です。
何といっても欠かせないのが、長命種であるエルフ・吸血鬼と普通の人間との間で生まれる「ズレ」の面白さ。本作では、とある高校に転入してきたエルフの吉住文殊(よしずみもんじゅ、以下モンちゃん)と、彼女より先に同校にてハイスクールライフを送っていた吸血鬼の月夜見(つくよみ)キュウを中心に、クラスメイトたちとの学園生活が描かれていきます。かつて架空の生物と思われていたエルフ。そのため、人々にその存在がバレないようにひっそり暮らしていましたが、今では街で見かけることも増え、すっかり人間の生活に馴染んでいる、という世界観の中で話は進みます。ちなみにモンちゃんは362歳、キュウちゃんは456歳。まさに長命。でも見た目はしっかり女子高生です。
転入してきた新参者のモンちゃん。最新のトレンドを取り入れて高校デビューをバッチリ決めようと思っていましたが、さっそく長命種ゆえのズレが発生。
30年前を「たった30年」と言ってしまうモンちゃんの感覚からすれば、平成ファッションなど、最新トレンドの範囲内かもしれません。
人間とは異なる時間の感覚やカルチャーに対する認識のズレにより生まれる笑いがそこかしこに散りばめられており、油断すると「ククク……ッ」と笑い声が漏れてしまう。ここで紹介したのは物語の冒頭シーン。本作を開いて早々に、モンちゃんとキュウちゃんの性格や、長命種あるいはファンタジーキャラゆえに生じる「人間世界とのズレ」という軸でコメディを展開していくことをわかりやすく明示しているので、この世界にスッと入っていけるのです。
本作のコメディ要素において大きなポイントになりそうなのが、平成カルチャー。30年前に少しだけ人間世界のあれこれに触れていたキュウちゃんは、日本人で言うならまさに平成世代。そこからアップデートできないままでいるため、令和カルチャーとのギャップが笑いを生みます。
たとえば、モンちゃんとキュウちゃんがプリクラを撮ることになった、この場面。
キュウちゃんと同じく、「あの頃のあれ」しか知らない私からしたら、共感の嵐です。わかる、わかるよキュウちゃん。最新プリクラ機、進化しすぎです。
なんやかんやで無事撮影完了。「作画が90年代になってんぞ」というセリフがいい。あの頃の『りぼん』か『なかよし』かというふたりのプリクラ写真に対する、絶妙なメタツッコミ。先述した“30年ズレ”場面での「学校案内パンフみたいに言ってない」もそうですが、キュウちゃんのツッコミワードにはセンスが溢れています。
1巻の中でも特筆すべき、お気に入りシーンを紹介します。普通の人間と言いつつ派手なプロフィール(父が宇宙飛行士、母がオペラ歌手、兄はアイドル)を持つクラスメイトに対抗して、魔法が使えることをアピールしたモンちゃん。いざ、詠唱……!
最初は何のことやらと思いつつ詠唱3つ目と4つ目のフキダシでピンときて、決定的とも言える5つ目でもうダメ。顔のにやけが止まりません。詠唱×「天城越え」という発想、作者は天才でしょうか。ここでも飛び出すキュウちゃんの「だよな!?」で始まるツッコミセンス、最高です。
ふたりがファンタジー世界の種族であり、特に高校に転入したばかりのエルフ・モンちゃんの令和の女子高生カルチャーに対する浅い理解によるズレや、人間と比べて長寿ゆえのギャップが楽しい本作ですが、それだけじゃなく、いったいどこから着想を得たのか!?というぶっ飛んだふたりの行動によって引き起こされる超絶コメディ展開から目が離せません。
小ネタと呼んでいいような、クスっと笑ってしまうギャグコマも見逃せない。ギャルマインドなモンちゃんのポジティブ思考になんだか元気も貰えてしまう。一粒でいろんな味が楽しめる、ボケのエルフとツッコミの吸血鬼が繰り広げるカオスな世界。一度足を踏み入れたら、もう戻れないかもしれません……!
レビュアー
ほしのん
中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
X(旧twitter):@hoshino2009