神なき地への旅
『メアヘイム』は、そんな類い稀な作品なので、決して読みこぼすこと無きように!
おおメアヘイムよ……
そこでは腐り落ちたる果実が枝へと戻る
それを食む者とていないのに
おおメアヘイムよ…
そこでは湖面が火に燃える
鮮やかな宝石が虚空に浮き
かつての住処は手が届かず
時に黄金が水のようにしたたる
条理なきメアヘイム
今や神の御手なき地……
ならばこそ火追い者たちは追う
この地に湧く奇物 およそあり得ぬ宝たちを
あるいは不老の妙薬か あるいは免罪の聖水か
あるいはすでに失われた命とて…
その手に取り戻す手立てがあるかもしれない
おおメアヘイムよ
そして火追い者たちよ…
神の手によらぬ幸運がそなたらの下にあらんことを
ひとりの少年が、神の御手なき地、忌まわしき“冥地”であるメアヘイムへと旅をしている。
トビアは案内人を引き受けるにあたって、冥地での鉄則をレンに教える。
ひとつ、冥地に危険がないなんてことは決してない。
ひとつ、冥地の物に手を触れない。
ひとつ、俺の言うことに無条件で従う。
レンが求める万能薬は、冥地の中心部にある“百舌鳥の泉”に湧いている。飲んだ者の病を癒す治療薬にも、自らへの恋に陥れる媚薬にも、地獄への苦しみへと誘う毒薬にもなる“それ”は、その効果と飲ませる者を願わなければ、その効果を発揮できない。つまり、他人が汲んだものは役に立たない。レンは、トビアから冥地の地理や危険な場所、魔女についての知識と対処法を座学で学んで準備を整え、改めて冥地へ足を踏み入れる……。
不条理と不道徳
『メアヘイム』の物語を織物に例えるとして、縦糸は、愛する弟のためにどうしても万能薬を手に入れなければならないというレンの目的だ。そして横糸は、なにかトリガーに触れれば即座“死の罠”が作動する冥地。物語としては、この縦糸と横糸で機を織れば、地獄巡りの冒険譚が成立する。にもかかわらず、作者はさらに糸に刃を向けるキャラクターたちを登場させる。レンとトビアに引っ付いて、彼らをガイド代わりにしようとするケチな火追い者たち「蛭(リーチ)」はまだかわいい方で、冥地の旅が楽になるなら人を嵌めても恥じない「蟷螂野郎(マンティス)」と呼ばれる悪党は、2人の旅を危うくさせる。たとえば、こんなシーン。
レンとトビア、そして蛭たちは、その姿を直視すると殺される「照れ屋の魔女」に遭遇する。遭遇したら魔女が過ぎ去るまで目を閉じていなくてはならない。そんな状況下でトビアに話しかけるマントの男アダー。言葉巧みに場を和ませ、気を緩ませたところでアダーは言う。
条理なき世界に道徳なき登場人物。これで物語はさらに重層的になり、深みを増していく。
もうひとつの『メアヘイム』の魅力、それは作画・Konata氏による圧倒的な画力だ。
兎にも角にも『メアヘイム』は破格のマンガである。
もう一回言っとくけど、決して読みこぼすこと無きように!








