秀逸すぎるオープニング
憧れの相手が見る影もなく落ちぶれてしまったのを見て
「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で、
「それでも生きてくれ」と願うのが執着だと思っていた。
だから私は、
遥川悠真に死んで欲しかった。
失踪事件を追う刑事は、荒らされた部屋に残っていたパソコンから、『部屋』というタイトルのワードファイルを見つける。さらに、クローゼットのなかから奇妙なものが……。
女の子のランドセル。
女子高生の制服。
壁の黒ずみ。
壁一面に貼られた小説の原稿。
それは遥川悠真のものか? それともクローゼットの中に居た“誰か”のものか?
『私が大好きな小説家を殺すまで』の原作は、斜線堂有紀の同名小説(メディアワークス文庫・刊)で、本作はそのコミカライズになる。冒頭の「憧れの相手が~」の一文から、有無を言わせずミステリに引きずり込む原作の力は大きい。
『部屋』というワードファイルは、こう続く。
私の神様はずっと死に損ねていたのだ。
…我ながら酷いことを思うものだ。
けれど、それが私の本当だった。
それだけが、私の本当だった。
この話をする為には、やはり六年前から始めなければいけないだろう。
あの頃、私はただの小学生だった。
そして先生は、
誰よりも美しい小説家だった。
そんな強度の高い文章を、漫画を担当する足立いまるは極めて抑制的に、淡々と絵に落とし込んでいく。ミステリ小説のコミカライズにおいて、この組み合わせはかなり幸せなめぐり合わせだと思う。
地獄の果てに出会ったふたり
家に入るのは5時30分。それより早くても遅くてもいけない。
新刊『天体の考察』が、学校の図書館に並んだ。
梓は、『家に余計なものを持ち込まない』という母の決めたルールを破り、本を借りて帰る。それが彼女の毎日を一変させる。母の男が、小学校の蔵書シールを貼られた本を見つけてしまうのだ。娘の存在を隠していた(だろう)母は激怒し、ガスコンロで本を焼く。さらには梓を本屋に連れていき、本を盗ませるのだ。5分以内で……。
次こそは死のう
次こそは
次こそ
「ちょっといい?」
…迷惑なんだよね
迷惑なんだよ
わかる?
俺ね その本の作者なんだよ
まるで捨て犬を拾うように……
お腹もすくだろうしさ
この世界で俺だけは君に同情してやるよ
やらない善より
やる偽善じゃん
しかし、遥川悠真にも梓にもそのエゴイズムにすがらなければいけない“なにか”があるのだ。そして遥川悠真の“なにか”について、まだ語られないところで第1巻は終わる。
う~、読みたい! 次を。原作を買って読んでやろうかと思ったが、「いや、この絵で読みたい」と思わせる、なんというか(繰り返しになってしまうが)幸せなコミカライズ作品である。
最後に、この巻末に斜線堂有紀先生による書き下ろし番外編「遥かの天命」という掌編が掲載されている。これは遥川悠真が作家デビューを果たした成り行きが書かれているのだが、これがまた物語を分厚くする最高の読者プレゼントになっている。すでに小説を読んだという人も、ぜひ。








