転生ものの主人公の大事な要素は、前世で果たせなかったことを、どれだけ深く覚えているかだと思います。というのも、転生したあとの人生はまったく別のもので、好都合なこともあれば足かせになることもあり、並みの人なら「まあいっか」と転生後の人生をそれなりに生きていくはずだからです。
『皇女転生~伝説の大魔道士(♂)、姫騎士となりて伝説の令嬢騎士団を作り無双する~』で、魔王との戦いで夢破れた大魔道士“アレックス”は、自分のことを「途中退場の脇役」と思っていました。魔道士に「大」が付くのだから脇役ってほどでもないんじゃないかと思うのですが、本人は自分の弱さを痛感していました。仲間とは決定的に違うことがあったのです。
他のみんなは貴族で自分だけ平民! 貧富の差とかそういう問題ではなく、身分によって戦いの「才能」が大きく違う世界なのです。
身体能力に恵まれないアレックスに剣は扱えず、だから努力で魔法を身につけ、大魔道士にまで上り詰めました。でもそこが行き止まり。上には上がいて、剣も魔法もどっちも強くて世界最強とうたわれる魔法剣士“ライアス”には到底かなわない。
ライアスに憧れながら死んでいったアレックスは、「貴族として近接戦闘の才能があれば自分も世界最強になれたかな……」と無念でしょうがない。
で、アレックスは、念願かなってとてもとても高貴な血筋の持ち主に転生します。でも?
女に生まれ変わっていました。しかも“エヴァンジェリン(エヴァ)”は皇女なので、お嬢様中のお嬢様。
身の回りのことは侍女が全部やってくれるし、エヴァは毎日ヒラヒラした服を着てピアノや語学のお稽古……。でも、皇女は前世であこがれた「世界最強」になりたくてしょうがないのです。前世からの魔法も使えるし、今回は高貴な血筋だから身体強化もできるはずだけど?
ベッドを持ち上げ重力魔法で負荷を足してスクワット。ベッドもただのベッドじゃなくて広くて大きくて飾りがいっぱいついた頑丈そうなやつだからかなり重いはず。でも1000回くらいフンフンやってます。世界最強への執念とフィジカルの強さがすごい。
なんでわざわざベッドを持ち上げているかというと、バーベルは侍女とお母様に見つかって取り上げられているから。そしてライアスのような魔法剣士になりたいのに、ハードルがあります。
筋トレで体を鍛えても、皇女のエヴァは剣を握らせてもらえません。その筋トレすら、お母様に「体を鍛えるのがそんなに楽しいのですか?」と言われる始末。
夢に向かってキラキラしているおてんばのエヴァ。でもお母様はエヴァが社交界で「燃える闘魂」「筋トレ姫」「アーマード・プリンセス」と呼ばれていることをとても気にし、エヴァに筋トレ禁止を命じます。お母様は、エヴァに、アーマードがつかない普通のプリンセスになってほしいんです。
で、女に剣術なんて無理だということをわからせるべく、お母様は剣術の指南役“セバス”に「男には到底かなわないことを教えてあげて(アザが残らない程度にね)」と言うも……?
そんなことで引き下がるわけがないエヴァは、セバスをぶっ飛ばし、お母様を卒倒させ、世界最強を目指して剣術も学ぶように。やったね!
表立った筋トレは禁止されるも(つまりエヴァはあの手この手でコッソリ筋トレを続けます)、セバスに剣術を教わり、魔法にも磨きをかけ、とうとうエヴァは「Sランク」相当の強さに上り詰めます。順調!
そして皇女ライフも並行して進めていきます。そう、社交界デビューです。世界最強の夢達成が最重要だけど、ちゃんと皇女としての人生も大切にしているのがえらい。このマンガの面白いところでもあります。
社交界といえば……そう、陰謀です。腹違いの兄“リチャード”がエヴァの社交界デビューにドロを塗ろうとするのです。血を分けた兄なのに!
いわく、剣術を習うような女は、女ではないのだそう。帝国内で持ち上がっている「女騎士団設立」なんてリチャードにはあり得ない話で、エヴァのやることなすこと全部気に食わない。もっと言うと皇帝(父親)と次期皇帝(兄)を蹴落としたい。で、クーデター画策のついでに、小汚い手をたくさん使ってエヴァをおとしめようとしますが……?
エヴァはいつもこんな感じなので安心してください。陰謀渦巻く帝国ですが、皇女はモリモリと元気&おてんばに成長して、ひたすら強いです。スカッとします。
レビュアー
花森リド
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
X(旧twitter):@LidoHanamori