フィンランド移住の夢をかなえた後の「まいにち」
フィンランド移住1年目から3年目までの「まいにち」をつづった『まいにちヘルシンキ』も、そういう静かで大きな変化を味わえるエッセイだ。
クリスマスマーケットで買ったストロベリー仕立てのホットワインのおいしさや、サウナ大国フィンランド流のワイルドなサウナ、フィンランド人の同僚が作ってくれた“ちらし寿司”に元気をもらった夜。まいにちの暮らしに含まれるハッピーなことや、大変だったことが、写真と日記、それからかわいいイラストで描かれる。まいにちが、やがて大きな織物のようになっていくのがよくわかる。
著者の週末北欧部 chikaさんは、フィンランドが大好きすぎて本当にフィンランドに移住してしまった人。移住の夢をかなえるために、日本で会社員をしながら寿司職人の学校に通い、修業し、フィンランドで寿司職人の仕事を得た。
夢って、ちゃんとかなうんだなあ……。chikaさんの寿司修業時代のお話は『かもめニッキ』という作品でたっぷり読める(ちなみに、白くて丸いおもちのようなchikaさんの自画像は“かもめ”がモチーフ)。そしてchikaさんの前向きさや豊かな心は『世界ともだち部』を読むとよくわかる。どちらもキュート&ダイナミックで楽しい。おすすめだ。
フィンランドへようこそ
この日は、chikaさんがフィンランドにあたたかく迎えられたことがわかる記念すべき日だ。私はこの日が大好きで何度も読んでいる。
たとえば、初めて「日本に帰りたい」と思った日。意外と早くやって来たその日に何があったかは読んでいただくとして、「夢の先に来ても、不安で『帰りたい』と口に出す日もあるんだなぁ」「まあ、やるしかない」と、当時の日記には書かれてある。そしてその日を振り返る3年後のchikaさんは「後にも先にも『日本に帰りたい』と思ったのはこの日だけだった」とも書いていて、とても胸が熱くなる。
ふとしたことで「帰りたい」と心細くなったり、それでも「まあ、やるしかない」と前を向いたり、そういう瞬間の景色や匂いは、新しい環境に飛び出した経験のある人なら、きっと覚えがあるんじゃないかなあと思う。
そしてそれらの気持ちが、まいにちの暮らしのなかでいつの間にか軽くなる喜びもこの本では優しく描かれている。
理想の働き方は自分で作る
そして銀行口座がやっと開設できてホッとするのも、旅行では味わえない、移住ならではのエピソード。
美しい街並みや自然、フィンランド人のライフスタイル。そういう、私たちがなんとなくイメージしている「北欧の、素敵でよいところ」から一歩踏み込んだ「まいにち」も、本書はていねいに描いている。413日目の日記が私は忘れられない。
「仕事終わりの平日夜、こんな自然の中で過ごせるフィンランドの人たちは素敵(すてき)だな…」
と思いかけて、すぐに、
「いや違う、この自然も、暮らし方も、ここに生きる人たちが自ら選んで守ってきたものなんだ」
と思い直した。
(中略)
「夢の場所に住めば、理想の暮らしができる」というわけではないことに気づかされた。
1日目から一気に読むのもよし(波瀾万丈だ)、なんとなく開いたページをゴキゲンに読んで、一気に1年後にジャンプしてchikaさんが選んだ人生にうなずくもよし。どんな読み方でも、自分のまいにちを前向きに選びたくなるエッセイだ。








