


核戦争後の終末世界で、生き残りの人類を求めて彷徨う兄妹
生き残った人間も大戦をともに戦ったアンドロイドに虐殺され、ほぼ絶滅していた。
そんな終末世界で、2人きりの兄妹は人類の生き残りを探し、雪原を歩き続ける。
この世界を統べているのは「機生蟲(きせいちゅう)」と呼ばれる謎の機械生命体。
大戦を生き残ったアンドロイドたちは、方々で集落を作って生き延びているようだ。
兄は行く先々で、機生蟲や、人間を敵視するアンドロイドたちに襲われる妹・夢を命がけで守りながら、育て続ける。自らもアンドロイドであることを、妹にすら隠しながら。
生き残りの人類を求めて彷徨(さまよ)う兄妹は、道中で出会ったアンドロイドから情報を得て、人間の女性「ディアナ様」がアンドロイドを支配している、カルト教団のような集落へ向かう。
実際にその地で確認してみると、ディアナは人間ではなく上位ドロイドだった。
根本のプログラムに「人間に従うこと」が組み込まれている下位ドロイドは、自分より上位のドロイドが人間かアンドロイドかの区別がつかない。それを利用し、ディアナは人間のフリをして下位ドロイドたちを支配していた。
大戦後の虐殺を受けて、人間はアンドロイドを憎んでいる。そのため「アンドロイドの兄に育てられた人間の妹」が他の人間たちに遭遇すると、兄は人間たちに殺される。それだけでなく、人類とアンドロイドの戦争をふたたび、誘発することになる。
そう考えたディアナは、兄妹の旅を終わらせるべく、人間である妹・夢を殺そうとする。兄は夢を襲うアンドロイドたちを蹴散らしながらカルト集落を後にし、南へと向かう。
兄妹は続いて「サイン様」と呼ばれる王が支配する「戦闘ドロイドの街」へ。
この街でも人間は敵視され、夢は誘拐されたうえで、街で開催される戦闘ドロイド同士のバトル「デスウォー」の商品とされてしまう。
ふたたび妹を助けるべく、街の支配者「サイン様」に対峙する兄――。
本作は、妹を廃墟の世界で1人にさせないために絶望の中で闘い続ける兄の、果てしない献身の物語である。
ドロイドたちは何を恐れ、何を求めて、何を「生きる目的」としているのか
人類が生態系の頂点を降り、謎の機械生命体・機生蟲が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する廃墟の世界。
生き残ったアンドロイドのうち、下位ドロイドは「人間に従うこと」というプログラムに支配されているものの、上位ドロイドの多くは人間を敵視しているようだ。



兄は「妹を人間に託したい。妹は『命』がわからない。自分にもわからないため、夢を人間として育てられない」という主旨の解答をする。
たしかに主人公である兄は冷徹な一面があり、自らもアンドロイドでありながら他のアンドロイドたちに対して突き放すような態度を取りがちだ。
しかし、ときに彼らに対し、情のようなものを見せることもある。
また、下位ドロイドたちも「寂しい」という感情や、仲間のドロイドや人間を想う気持ちなども持っているように見える。
ディアナの分析によると、兄は汎用型の戦闘用アンドロイド「Gシリーズ」に似ているらしい。しかし「妹を守る」という行動原理は、戦闘用ドロイドのそれではなく、むしろ人間に近しい。そんな兄の行動を、ディアナは「気色悪い」とぶった切る。
作中を通して、ロボットのような見た目の下位ドロイドたちは、わりと人間っぽい感情やコミカルな行動を見せることもある。しかし、外見は人間と区別がつかないような上位ドロイドほど、常に冷徹な言動を見せ、人間を敵視しているように見える。
単なる機械ではなく、明らかに自らの意思や感情を持っているように見えるドロイドたちは、そもそも何を恐れ、何を求め、何を生きる目的としているのか。彼らの思考や価値判断には、未だに謎が多い。
もうひとつの大きな謎は、兄妹の関係、および兄の正体だ。


しかし廃墟の中から逃げ出した兄は、妹を抱えてはいなかった。
「父さん 母さん ごめんなさい 僕は 人間になれなかった」
これがそのときの兄の、心の叫びだ。
つまり兄は、妹・夢を助けなかったように見える。
さらに現在、兄とともに旅を続けている妹・夢の年齢は10歳。
明らかに計算が合わない。
兄はそのときから150年以上を経て、道中で自らが救った少女に「夢」と名付け、自身が少年時代に妹を救わなかったことへの罪滅ぼしを行っているのかもしれない。
兄にとってこの旅のゴールは「他の人類を探し当てて妹・夢を託すこと」だろう。
しかし、万が一、それが達成されたとしても、アンドロイドたちと人類の根深い確執がここまで描かれていると「これで大団円」となるとはとても思えない。
兄が機生蟲や敵のアンドロイドを倒すときに使う武器は、おもに掌から発される「謎の熱源(ヒート)」だ。兄の掌からタイトル通りの「ラストヒート」(最後の熱)が放たれたとき、物語はどのような結末に収束するのか。
終末世界を舞台にした、抒情的な近未来SF作品。
行く末が気になって仕方がない。