「女であることって、なんかしんどい」──そんな気持ちに覚えがある人へ
2025年5月22日に発売された岡藤真依先生の最新作『彼女は裸で踊ってる』は、その“しんどさ”を真正面から描いた物語です。
『どうにかなりそう』で平凡な少年少女たちの不器用な思春期の性を、『少女のスカートはよくゆれる』でさまざまな悩みを抱えた女性たちの性を、『あなたがわたしにくれたもの』では「忘れられない最後のセックス」を綴る失恋オムニバスを──。と、岡藤先生はずっと、性と心にまつわる繊細なテーマを、やさしく、そして大胆に切り込んで描いてきました。
主人公・牧野は、身長150cmに満たず、胸だけが目立つ体型をしています。学生時代から、望まない視線にさらされ、「見られる側」としての自分に嫌気が差していました。大人になってもその違和感は消えず、「女であること」に息苦しさを感じながら暮らしています。
ある日、牧野は通勤電車で痴漢に遭います。いつものように我慢してやり過ごそうとした彼女を助けたのは、「女でいるってきっといいことあるよ」と真っ直ぐに言える桃尻かおりでした。
かおりにお礼がしたくて訪ねた先は、まさかのストリップ劇場。戸惑いと嫌悪感から、「あんなの痴漢されてるのと一緒です」と思わず言ってしまう牧野。けれど、かおりは怒ることなく、「私は、自分の意志で脱いでいる」とまっすぐに返します。
「見られる」から「魅せる」へ。彼女たちは美しく、そして強い
その言葉に揺さぶられた牧野は、初めてかおりの踊るステージを観ることに。そして目の前で繰り広げられるショーに、圧倒されます。
「見られている」ではなく「魅せている」──命を削るようなパフォーマンスに、彼女はただ息を呑み、言葉を失いました。
特にかおりが放つまなざし、自らの身体を自らの手で扱う強さ、美しさ。そこには、これまで牧野が否定してきた「女性であること」の、まったく新しい肯定のかたちがありました。
痴漢や性被害だけではありません。生理、妊娠、出産、育児といった身体的負担。働きづらさ。「女らしく」「家庭的に」といった社会の期待。女性であることの「しんどさ」は、本当に多岐にわたります。
この作品は、そんな“重たさ”を背負う私たちを解放すべく、そっと押してくれるような力を持っています。
見られることが暴力になり得る一方で、ストリップという舞台を通して「見せることを選ぶ」行為から“視線の主導権”を取り戻すということの本質を描いていると感じています。
女性作家である岡藤先生だからこそ紡げた“内側から”のまなざし。性を「消費されるもの」としてではなく、自分の手に取り戻すものとして描く視点が、物語全体に通底しています。
丁寧で繊細な線。静かだけど、力強いメッセージ。
『彼女は裸で踊ってる』は、「女であることがつらい」と言葉にする余裕がないとき、ただ静かに手に取ってほしい作品です。きっと少しだけ、自分を肯定できるようになる──そんな作品となっていくことでしょう。
レビュアー
Micha
ライター。フリーランスで働く一児の母。特にマンガに関する記事を多く執筆。Instagramでは見やすさにこだわった画像でマンガを紹介。普段マンガを読まない人にも「コレ気になる!」を届けていきます!
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Instagram:@manga_sommelier