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2025.06.05

レビュー

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読めば釣り旅=つりっぷしたくなる! 釣りガチ勢も唸る学生アイドル×釣りマンガ

「釣り」やってみませんか? ってメバリングに誘われたい!

主人公は、元・愛され中二系アイドル「よみよみ」の島野容三子。彼女は現在、小さな芸能事務所「千夜芸能」の社長をしていて、人気急上昇中のアイドルグループ「トリッパーズ」のプロデューサーも兼ねている。
この物語は、グループの大黒柱的なメンバーのセリカから、
社長
「釣り」やってみませんか?
と誘われるところから始まる……。

っと、ちょちょちょ、そんなキラキラふわふわした感じで釣りをしちゃうの? こちとら矢口高雄先生の名作『釣りキチ三平』にやられて、中学時代は机に向かう時間より、川べりでウキを見つめていた時間のほうが長かったクチである。釣りのロマンといえば、それすなわち“釧路湿原で幻の魚イトウを釣る”こと。そもそもアイドルが趣味で釣り竿を振るなんて設定が盛り過ぎ! などと舐めてかかって読み進めたら、返す刀でバッサリ袈裟(けさ)斬り。というのもこの作品、ガチもガチ、ガッチガチのマニアックな釣りマンガなんである。

まず手始めにセリカが社長を誘うときの釣りが、メバル狙いのジグヘッドを使ったルアー釣り。いわゆるメバリングというやつ。海っペリの小物狙いの釣りだが、初級者にはうってつけ。
人の親としては「若い女の子が、夜釣りでミニスカートは……」と、ちょっと心配。でも釣り師としてはDaiwaのキャップから機動性重視のランガンバック、ライトタックルまで「セリカちゃん、やり込んでるねぇ!」と唸らせる装備。チヌ(黒ダイ)が表層にいるとみるや、ルアーをサクッとフナムシの生き餌に変えて、社長の竿にヒットさせるとは、なかなかの手練れ。残念ながら、チヌはバラしてしまうのだが……
なにかと釣り人のマナーというのは問題になることが多いが、セリカちゃんはエライ!

魚があなたを呼んでいる!

本作の原作者・青木潤太朗氏は小説家で、さまざまな漫画原作を手掛けている先生だが
この【つりっぷ】は釣りガチ勢の筆者が同じく釣りガチ勢に届けたい、という究極のわがままみたいなマンガです((中略)あとアイマスガチ勢にも届いてほしい
という思いで書いているという。それゆえ美少女しか出てこないキャッチーなマンガであるのに、ときおりガチすぎるネタのコマが放り込まれる。たとえば長野でのイベント(営業というやつですね)に出かけたトリッパーズの面々は、その足で野尻湖へ繰り出す。狙うはスモールマウスバス(いわゆるバス釣り。野尻湖ではスモールマウスバスを観光資源として管理して公に認めているので、キャッチ&リリース推奨なのだ←ってとこまで、きちんとマンガで押さえられている)。で、バスを釣り上げた後のコマ。
ディーパーレンジとは、絵に描かれているような深い水域(ディーパーレンジ)にいるバスを狙うルアーのこと。それはまぁ分かるとして、「ネストは初心者にゆずるフェアプレーの精神~」の吹き出しが、釣りキチ三平世代には分からない。それで口惜しいから調べて理解した。一気に説明するよ。

バスには巣(ネスト)を守る習性があり、その巣のまわりにいるバス(ネストフィッシュ)は釣りやすい(←ここまではマンガでも描かれている)ので、釣り上級者はあえて狙わず、初心者に釣らせてあげようというのが、スポーツ・フィッシングにおけるフェアプレー精神なのだ! でも本当のところ、めちゃくちゃよく釣れることで知られる「ノリーズ」というブランドのルアーを使って、初心者でも釣れるネストフィッシュを狙うなんていうのは、ノリーズの創業者であり、優れたルアーデザイナーである田辺哲男氏に申し訳ないと思ってしまうので、私はネストフィッシュは狙わないんだ。

って……、
このセリカちゃんの心の機微、釣りガチ勢以外に誰が分かるんだ!
三平三平(みひら さんぺい)はノリーズのルアー使ってなかったもん(多分Daiwa製)!
分かんないよっ!
でもコレがいいのだ。「分かるやつに分かればいいんだよ」ってネタに振り切っているからこそ刺さる面白さ。

他にもこういうネタがある。セリカちゃんが社長を釣具に置き換えて表現するなら……ってコマ。
ファイナルディメンション(最終次元)ってどういう意味よ?
それはな……、意味などないのだ(多分)!
大体において日本の釣具メーカーは、商品名に大げさな名前を付けがち問題というのがあり、「そういえば、昔使っていたDaiwaのリールの名前はミリオネア(億万長者)だったしな」と思い出して笑ってしまった。

ことほどさように、かわいい女の子がワッキャと楽しむ様子に癒やされながら、こと釣りに関してはハイブロウなネタを連打し、釣りガチ勢をホクホクさせるこの漫画。さらに追い打ちとばかりに、グルメ情報を差し込んでくるのだ。北九州銘菓の「くろがね羊羹」に、ふわふわ生地にクリームをサンドした「牛乳パン」、釣行ついでの駅弁情報まで、全体的にカロリー高めの一品を食べる食べる! めっちゃ食べる! 読めば、長く釣りから遠ざかっていた“かつての”釣りガチ勢のお尻を、ムズムズさせること間違いなし。防波堤に寄せる波、静けさをまとった湖面……。「魚がオレを呼んでいる」と思ったあなた(及び、オレ)、もはや「つりっぷ」に出掛けるしかない!

レビュアー

嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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