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2024.11.09

レビュー

癒しと冒険の旅へ──。自分のルーツを探しに行ったトルコでの摩訶不思議な日々

死ぬまでに行っておきたい海外はどこだろう、とよく考えます。最近、急浮上してきたのが、東洋と西洋の文化が交差するトルコのイスタンブール。
『スルタン・スイート』は、トルコ在住の市川ラク先生ならではの生活感がある作品で、まるでそこで暮らしているような気分にさせてくれます。

バックパックひとつでイスタンブールにやって来た夕暮灯(ゆうぐれとう)。
着いた早々野良犬に噛まれるというトラブルはあったものの、宿泊先であるヤームルさんの店で働かせてもらうことになりました。
灯がイスタンブールにやって来た理由は、人生をやり直すため、そしてトルコ人の父親を探すためでした。父親探しの手かがりは、大昔にガラタ塔の前で撮った1枚の写真だけ。
ガラタ塔は、イスタンブールがコンスタンティノープルと呼ばれていた東ローマ帝国(ビザンツ帝国)のころからある実在する観光名所。
ほかにもボスポラス海峡の遊覧船、アヤソフィア、ブルーモスクなど有名な所も出てきて、観光気分を味わえます。
さらに移動手段はメトロ、バス、トラム以外にトゥネル、マルマライ、メトロビュスなど聞いたこともないものがあり、旅の情報としても役立ちます。

ヤームルの店で働き始めた灯は、何かと気にかけてくれる優しいヤームルに親近感を覚えますが、ヤームルの友人で店のオーナーでもあるレイハンは違いました。
「チェキッキ」はトルコ語で、「斜めの」「傾いている」という意味で、つり目が多いアジア人を差別する言葉だということを初めて知りました。
「チンチャンチョン」という言葉もアジア人に対する差別用語だとか。

こんな負の描写も出てくるのかという驚きとともに、私も昔、スペインのバルでからかわれた苦い思い出が蘇(よみがえ)りました。
女のひとり旅なので下手に絡むと危険だと思い、私は穏やかな表情で聞こえないふりをしていたのですが、本当は怒るべきだったのではないかという悔しい思いはいまだにあり……。
しかしヤームルのセリフに心が軽くなりました。ヤームル、いい奴だなぁ。
一旦は仲直りしたレイハンですが、またひどいことを言われた灯は、新しく住む場所を探しに行くのですが……。
海外では、ちょっとでも油断をすると犯罪に巻き込まれる可能性があり、読みながらもヒヤヒヤです。
こうしたリアルな描写は、やはりトルコに住んでいる作者だからこそわかることなのでしょう。
        
そして、もちろんトルコ料理もたくさん出てきます。トルコ料理は、フランス、中華と並び世界三大料理なのに、ケバブと伸びるアイスしか見たことがなく(笑)。
情報としても役立ったのは、料理を指差しで注文できる「ロカンタ」という大衆食堂があるということと、品数が多いトルコ式の朝食「カフバルト」。
これらを見ていたら無性にトルコ料理が食べたくなり、食べに行ったのですが、かなり残念なお味で……。
これはやはり、本場のトルコ料理を食べにイスタンブールまで行かないといけないかもしれない!!

本のカバーには、トプカプ宮殿のタイルにありそうな花柄模様もあしらわれていて、気分はすっかりイスタンブール。
この先どんなイスタンブールでの生活があるのか、灯と一緒に楽しみたいと思います。

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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