『スルタン・スイート』は、トルコ在住の市川ラク先生ならではの生活感がある作品で、まるでそこで暮らしているような気分にさせてくれます。
バックパックひとつでイスタンブールにやって来た夕暮灯(ゆうぐれとう)。
着いた早々野良犬に噛まれるというトラブルはあったものの、宿泊先であるヤームルさんの店で働かせてもらうことになりました。
ほかにもボスポラス海峡の遊覧船、アヤソフィア、ブルーモスクなど有名な所も出てきて、観光気分を味わえます。
さらに移動手段はメトロ、バス、トラム以外にトゥネル、マルマライ、メトロビュスなど聞いたこともないものがあり、旅の情報としても役立ちます。
ヤームルの店で働き始めた灯は、何かと気にかけてくれる優しいヤームルに親近感を覚えますが、ヤームルの友人で店のオーナーでもあるレイハンは違いました。
「チンチャンチョン」という言葉もアジア人に対する差別用語だとか。
こんな負の描写も出てくるのかという驚きとともに、私も昔、スペインのバルでからかわれた苦い思い出が蘇(よみがえ)りました。
女のひとり旅なので下手に絡むと危険だと思い、私は穏やかな表情で聞こえないふりをしていたのですが、本当は怒るべきだったのではないかという悔しい思いはいまだにあり……。
しかしヤームルのセリフに心が軽くなりました。ヤームル、いい奴だなぁ。
海外では、ちょっとでも油断をすると犯罪に巻き込まれる可能性があり、読みながらもヒヤヒヤです。
こうしたリアルな描写は、やはりトルコに住んでいる作者だからこそわかることなのでしょう。
そして、もちろんトルコ料理もたくさん出てきます。トルコ料理は、フランス、中華と並び世界三大料理なのに、ケバブと伸びるアイスしか見たことがなく(笑)。
情報としても役立ったのは、料理を指差しで注文できる「ロカンタ」という大衆食堂があるということと、品数が多いトルコ式の朝食「カフバルト」。
これはやはり、本場のトルコ料理を食べにイスタンブールまで行かないといけないかもしれない!!
本のカバーには、トプカプ宮殿のタイルにありそうな花柄模様もあしらわれていて、気分はすっかりイスタンブール。
この先どんなイスタンブールでの生活があるのか、灯と一緒に楽しみたいと思います。