これからなんにだってなれるよね

主人公の“七瀬”は東京の大学に通うために青森から上京してきた18歳。山手線に乗ってみたらドア付近にたたずむキレイなお姉さんを見つけて「わたしってなんか芋っぽいかも~」なんてクヨクヨしたり。リアル! がんばろうって思ったり、ふと弱気になったり、その繰り返し。
そんな七瀬の目を通して見る東京は、みずみずしくてまぶしいんです。

ちょっと落ち込んでも、東京タワーを見上げて「これからなんにだってなれるよね」って背筋を伸ばす七瀬が私はとても好き。
夢の大学生活、1個叶ってない?


こんないい子の七瀬なのに、入学して3ヵ月たってもまだ友達がいませんでした。諸事情によりスタートダッシュに出遅れてしまったのです。
講義を受けるのもひとり、学食でのランチもひとり。でも!


そして「友達できた?」なんて世間話の流れで、七瀬は自分が大学での友達作りに失敗をしてしまったことや、大学生活に夢を見ていたことなんかを桧里に話します。ここでちょいちょい「こういうところが田舎者っぽいですかね!?」と気にしたり。わかるよその気持ち。
七瀬が夢見ていたのは「空きコマでご飯食べたり、休日鍋パしたり、勉強したり……」といった、ありふれたキャンパスライフでした。ありふれているけれど、まぶしいんですよね。
七瀬が話すことを桧里はゆっくり聞いてくれます。そして……?

こうして七瀬は自分の恋心をゆっくり大切に育てていく……はずなのですが、半歩進んでは半歩下がる感じです。本当にゆっくりで、穏やかで、とても面白い。
たとえば桧里とふたりで東京タワーへ遊びに行ったとき。そう、七瀬は、上京のシンボル・東京タワーに、キラキラキャンパスライフの象徴・桧里とふたりで行くんです。それって完全なるデートじゃん、よかったね!と思いきや、

そして本作はおそらく現地取材をていねいに重ねて描かれた作品です。実在の場所がたくさん登場します。七瀬がむくれながらパンをかじっていたパン屋さんも東京タワー付近にあります(何を食べてもおいしい!)。あのカフェオレや木漏れ日のきれいなテラスを思い出すと、なんだかふたりの姿が目に浮かぶ。

で、仲良く自撮りをしていますが、七瀬の恋はまだ始まったばかり。そして大学生活も始まったばかり。桧里に誘われてサークル活動に参加してみたり、満員電車にうんざりしたり、実家から野菜がたくさん届いたり。新しい世界がゆるやかに広がっていきます。それがリアルで楽しいんです。
