このドアノブを9万円で買えば、人生の因果律が書き換わる?
世の中の女性から虫けら扱いされ続けている「弱者男性」の標本のような会社員だ。
「醜男で根暗で貧しくて学歴もない」(すべて本人談)という彼は、ほんの気まぐれで道端の古物商「がらくた伽藍堂」のドアを開く。
その店の勘定台に座っていたのは、店主のヨミ(36)。
純白の白肌に美しい黒髪、整った顔立ちに加えて、なによりも爆乳。
彼女は「婚活を成功させたいなら、これを買いなさい」と一つのガラクタを手にする。
なんの変哲もない「ドアノブ」だ。
「キミが婚活に成功するには、意味不明な行動をとって因果律を書き換えることが必要なの」
そんな謎の理屈で、ただのドアノブを高値で売りつけようとするヨミ。
当然ためらう鴨居だが、それを見たヨミは、なぜかどんどん値段を吊り上げていく。
交渉過程でのヨミのちょっとした策略にも騙され、ついにドアノブを買う決心をした鴨居。
4万円で始まった価格は、すでに9万円にまで上がっていた。
もちろんそんなもので、婚活が上手くいくはずもない。
むしろ災難に遭ってしまい、クレームを言うためにふたたび伽藍堂に戻る鴨居。
しかし圧倒的に口が回りまくるヨミに、ふたたび言いくるめられる。さらに「キミが辛い時はいつでもウチのドアを叩いていいわ。愚痴ぐらい聞いてあげる」と優しくささやかれ、涙まで流す始末である。
それ以降、あるときは旅行の土産物のようなペナントを4万円で買わされ、あるときはお店のチャリティーTシャツを買わされ、ついにはなぜか未使用のコンドームを「言い値で」買わされる。この物語は婚活に勤しむ心優しき弱者男性が、やたら色っぽく口が達者な、謎多き美人古物商に「どこか楽しそうに」カモられまくる、異色の「骨董店コメディ」である。
カモられながらちょっと楽しそうな鴨居くん、大丈夫ですかね?
ヨミさんにしろ鴨居くんにしろ、あるエピソードに出てきたヨミさんの旧友にしろ、かなり語彙が豊富というか、物語全体の会話のテンポが非常にいい。
ヨミさんが「言葉を選びながら」のフリをして鴨居くんに怒涛のディスを向けるくだりなど、あまりの切れ味の鋭さに、仮に罵倒の対象が自分だったとしても笑ってしまうレベルだ。
それに対する鴨居くんのツッコミの台詞やモノローグにもセンスを感じる。こういう返しができるなら、じつは見た目もシュッとしていると言えなくもないし、けっこうモテてもおかしくないんじゃないか、という気もする。
でなければ、すでにおそらく十万~数十万円のレベルで「ボッタくられている」にもかかわらず、足しげく店に通うこと自体がないはずだ。なんかキャバクラとかの夜のお店にハマる男性の話か?と錯覚してしまうような言い方だが。
しかも、ヨミさんとのサシ飲みでヘベレケになった勢いでとはいえ、朝起きたら二人でラブホテルの一室で目を覚ます……という、なんやかやで羨ましい展開もあったりする。二人とも記憶を飛ばしており、二人の中では「なかったこと」になっているようだが、単行本の書きおろしマンガを読むと、じつは圧倒的にヨミさん主導でガッツリ、コトに及んでいた(笑)。
エピソードの中には、鴨居くんの魅力である「不器用ながら心優しき行動」が描かれた回もあれば、ヨミの過去を知る旧友の、なんだか思わせぶりなニオわせ回想シーンも登場。きっと今後、ヨミさんの過去が描かれることもあるのだろう。
ヨミさんと鴨居くんが成り行きでペアルックTシャツを着て街を歩いていたシーンが、他の人には「なんかいい感じのバカップル」に見えているような描写もあった。
基本的に1話完結の構成ながら、物語が続く中で二人の関係性がどのように進んでいくのか。「想い、想われ、じれったい」的な普通のラブコメ展開にはならないだろうし、もしかしたらずっと「ヨミさん主導の店主とカモられ客の関係」から出ないかもしれないが、ちょっと楽しみではある。