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2025.01.06

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シャーロック・ホームズとワトソンの、吸血鬼をもって吸血鬼を制すダークアクション!

偏屈でいけ好かない天才探偵の本業は「ヴァンパイア・ハンター」!?

舞台は19世紀のロンドン。
巷(ちまた)では猟奇的な殺人事件や未解決の行方不明事件が頻発し、その頻度と残虐性から「吸血鬼の仕業ではないか」という噂が流れていた。

主人公とその相棒が住む場所は、ロンドンのベイカー街221B。
この時点で多くの人は気づくだろう。
物語の主人公の名はシャーロック・ホームズ。同居人の名はワトソン。
ホームズは本職の空き時間を使って私立探偵の仕事をしている、超優秀な頭脳を持った変人だ。

アフガニスタン帰りの退役軍人であるワトソンは、ホームズの出した同居人探しのチラシを見て、ベイカー街221Bへ。「ホームズの仕事を手伝う」という条件で同居することとなる。

ワトソンがホームズのもとを訪れたその日の夜、ホームズが部屋に拘束していた多くの吸血鬼が「共鳴」の振動を見せる。これは新たな吸血鬼が生まれたときに起きる現象だ。
ホームズの本職。それは「ヴァンパイア・ハンター」だった。

猟奇的な殺人事件が起きた現場に到着する、ホームズとワトソンの二人。
現場の近くには、まだ吸血鬼が潜んでいた。ホームズは急襲され、ほぼ助からないと思われるほどの重傷を負ってしまう。ホームズに肩を貸して、ともにその場を逃げようとするワトソンだが、そのとき、ホームズは驚きの行動に出る。自らの頭を銃で撃ちぬいたのだ。

「ホームズは逃げる自分の足手まといにならないために自殺した」と嘆くワトソン。
その遺志(?)を無駄にしないよう現場から必死で逃げるが、素早い吸血鬼の追撃を受け、裏路地に追い詰められる。死を目前にして走馬灯を見るワトソン。その窮地を救ったのは、なんと「吸血鬼化(ヴァンパイアか)」したホームズだった。
「実験が成功したんだよ! ワトソン君」
ホームズは吸血鬼の解剖・解析を繰り返す中で、一定期間、「吸血鬼化」できる特製の吸血鬼薬の開発に成功していた。既に自身にその薬を打っていたホームズだが、その場で襲ってくる吸血鬼と対等に戦うためには、自ら命を絶ち「吸血鬼化」する必要があったのだ。

次の案件ではスコットランド・ヤードのヴァンパイア・ハンターであり、無頼系のイケメンでもあるレストレード警部も登場。吸血鬼騒動を解決してロンドンの町に平和を取り戻すため、ホームズとワトソンの二人は奮闘する。

シャーロキアンである著者の「ホームズ愛」を感じる作品

本作を描く四隅ノマド氏はシャーロキアン(シャーロック・ホームズ愛好家)。学生時代はシャーロック・ホームズに夢中になり、気づけば日が暮れていたという。

そのため、物語の冒頭でワトソンが自身のことを語る前から「アフガン帰りの退役軍医」であることを見抜くくだりや、「ウィギーズ」と呼ばれるストリート・チルドレンたちを使ってヒマつぶしの探偵業務(貴婦人の飼い犬探し)をあっという間に成功させるくだりなど、細部に著者の「ホームズ愛」が感じられるエピソードが散りばめられている。
(元ネタではホームズが使役するストリート・チルドレンの集団「ベイカー街遊撃隊」の隊長の名前が「ウィギンス」だった)

自らの意思や知性を残して吸血鬼化した犯罪者(「適合者」と呼ばれていた)が、イギリスを中心とした英語圏でもっともメジャーな童謡「マザー・グース」の一編である「パンチとジュディ」を口ずさんでいるところも、芸が細かい。

ホームズたちが住む家の家主・ハドソン夫人もいい味を出している。ホームズの「ヴァンパイア・ハンター」としての仕事に理解を示してサポートし、ワトソンに「ヴァンパイア・ハンター」としてのチュートリアル(初期訓練)を施す。
ときにホームズや、実の弟であるレストレード警部も夫人に頭が上がらない、というようなギャグ描写も入っており、ふとするとグロ描写や残虐なシーンが多くなりがちな設定に緩急をつける役割も果たしている。というか、この物語の「最強キャラ」は実はハドソン夫人なんじゃなかろうか……
「街の癌」(犯罪者たち)に吸血鬼薬を打って「吸血鬼化」させている黒幕もすでに登場しているが、1巻の時点ではまだキャラクター名は判明していない。元ネタを知る人ならその名前もおそらく想像がつくのだが、あえてここでは触れないでおこう。

物語自体は「ホームズが自らを吸血鬼化し、街の平和を揺るがすヴァンパイアたちと闘う」というなかなかのぶっ飛び具合。そんなな中でもホームズの優秀さや偏屈さ、相棒であるワトソンに対する「愛のある厳しさ」などが巧みに表現されており、その丁寧な描写が個性的なキャラクターたちの魅力を増大させている。

ホームズやレストレードの活躍で捉えられた吸血鬼が謎の進化(“フェイズ2”と呼ばれていた)を見せ、スコットランド・ヤード内がとてつもない大パニックに陥ったところで、第1巻は終了。「どうすんだよ、これ……」と次巻に期待を持たせる構成も見事なものだ。

レビュアー

奥津圭介

編集者/ライター。1975年生まれ。一橋大学法学部卒。某損害保険会社勤務を経て、フリーランス・ライターとして独立。ビジネス書、実用書から野球関連の単行本、マンガ・映画の公式ガイドなどを中心に編集・執筆。著書に『中間管理録トネガワの悪魔的人生相談』『マンガでわかるビジネス統計超入門』(講談社刊)。

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