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2024.12.15

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パワーやスピードより知恵と経験が勝敗を決める!!「ブラジリアン柔術」初心者物語

それでもやっぱり強くなりたい

ブラジリアン柔術は、グレイシー柔術を競技として発展させた寝技中心の格闘技だ。ホイス・グレイシーを筆頭とするグレイシー一族が格闘技界を席巻した90年代から00年代前半、その格闘技は世界最強といわれた。あっという間に関節がキマって決着する展開は、まるでマジック、いや魔術のようだった。その人気は絶大で、グレイシー一族とプロレスラー桜庭和志の死闘に歓声を挙げていた世代にとって、ブラジリアン柔術の登場は格闘技界の歴史が変わった瞬間であり、今もって特別。そんな最強のブラジリアン柔術をテーマにした漫画が、この『ブラジュ〜』なのだが……、なんて締まらないタイトル。しかし、絶対にこのタイトルしかない漫画なのだ。
主人公は、チビでガリでアホで体力がない宮崎三矢男。「強い男になりたい」と思って格闘技ジムに入門しては、「才能ねーよ」と言われて2週間程度でやめてしまう。そうしたコンプレックスゆえに性格は歪み、もちろんモテにも縁がない。そんな三矢男の前に怪しい二人組が現れる。
彼らが「迷わず行けよ 行けばわかるさ…ヤンス」と手渡したのは、ブラジリアン柔術「神谷ブラジュ〜道場」と書かれたポケットティッシュだった。気になった三矢男が道場を訪ねてみると、クセの強そうな面々が“くんずほぐれつ”練習している。

な~んか微妙……。

道場主の神谷三郎から感想を求められ、やめときゃいいのに三矢男は素直に話してしまう。
そうなのだ。ブラジリアン柔術は異次元に強い。しかし、めっちゃ地味。かつての一大ブームのときも最初はあまりの強さに驚き、みな興奮したが、ずっと寝転がって戦い、派手なKOシーンもなく、(素人目には)単調な展開に、次第に飽きてしまった。悲しきブラジリアン柔術。
そして三郎と戦う羽目になった三矢男は当然、瞬殺される。
そうなのだ。競技化されたブラジリアン柔術といえど、一皮剥けば命を取り合う格闘技。「強さ」が絶対にして唯一の拠り所の武術なのだ。そして同時に、ブラジリアン柔術が他の格闘技や武術と異なるところがある。
自分より大きい敵、自分より力のある敵、自分より体力のある敵……、そうした敵に勝つためにどうしたら良いか? 小柄で喘息持ちだったエリオ・グレイシーが徹底的に練り上げ、完成させた武術ゆえに、ブラジリアン柔術なら、どんなヤツだって強くなれる! それがブラジリアン柔術なのだ。

「カッコよくない」を突き抜けた先の強さ

どんなヤツだって強くなれる! たしかにそうだが、ちょっと言葉が足りない。
(死ぬほど練習をすれば)どんなヤツだって強くなれる! が正しい。足回し(寝転がって膝から先をクルクル回す)、足蹴り(寝転がって自転車を逆に漕ぐ動き)、肩ブリッジ、受け身からの柔術立ち、エビ、ワニ歩き、ゴリラ歩き、腰切りにしぼり。これら準備運動だけで初心者の心臓は、YOSHIKIのドラム並みに早打ちになること間違いなし。一度、冬の柔術道場を取材したことがあるけど、準備運動が始まると広い道場の気温と湿度が一気に上がるほどだ。

柔術においては、上になるポジションと下になるポジションがある。「そんなの上が有利に決まっている」と思うだろうが、熟練者が寝転がって足裏を相手に見せたガードポジションを取られると、初心者などあっという間に引き込まれて寝技をキメられる。三矢男も例に漏れず、小柄な神谷七子に瞬殺される。上になっても下になっても瞬殺、瞬殺、また瞬殺。ガードポジションを破るには「パスガード」という基本的な技術を習得しなくてはいけないのだが、三矢男にできない、ずっとできない、第1巻では1回も成功しない。でも七子は言う。
三矢男は本当に強くなるのだろうか?

今のところ強くなりそうな要素がまったくないけれど、三矢男は多分ブラジリアン柔術をやめない。七子がいるからとか、自分より弱そうなやつに負けたくないとか、そういう理由じゃなく、のびしろしかないからだ。そして死ぬほどキツい練習でも、一生懸命に向かい合えば、めっちゃ楽しいからだ。ブラジリアン柔術の魔術は、“強さ”にあるのではなく、「どんなヤツだって強くなれる!」、そして「のびしろしかない」という言葉にこそあるのかもしれない。ホイス・グレイシーもエリオ・グレイシーも、実は自分の「のびしろ」を求め続けただけだったとしたら、三矢男だって(死ぬほど練習すれば)いつか強くなれる。そういう夢、いいよね! カッコいいよね!

特技や長所、それこそセンスがあって、メキメキ強くなっていく主人公の漫画もいいけど、三矢男は“なんにも持ってない”からこそいい。というか、シンパシーしかない。だって、あなたも私も大体の人間は“なんにも持ってない”から。世界の大舞台じゃなく、道場の片隅でパスガードをキメる三矢男、間接技をキメる三矢男に感動する準備はできている。2巻でキメてくれるかなぁ?

レビュアー

嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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