一品目のチャーハンの写真。この盛り方を見ただけで「あ~、あの大刻屋のチャーハンか!」とわかる人は、かなりの『ハンチョウ』ファンと言えるだろう。
『1日外出録ハンチョウ公式 男めしレシピ』は、『カイジ』シリーズのスピンオフ作品として連載中の『1日外出録ハンチョウ』から生まれた公式レシピブック。巻頭の描きおろしマンガで自虐的に触れられている通り、いわば「スピンオフのスピンオフ」作品だ。
そもそも『1日外出録ハンチョウ』のキャッチコピーが「カイジの飯テロスピンオフ作品」。大手消費者金融「帝愛」に借金をし、地下労働施設で監禁・労働を強いられている班長・大槻とその仲間たちが、入手した「1日外出券」を使ってシャバに繰り出し、さまざまな庶民派グルメに舌鼓を打つ。そんな作品が大ヒットして、すでに単行本で20巻まで発売中なのだ。「スピンオフのスピンオフ」として、レシピ本が企画されるのもうなずける。
で、このレシピ本。「ハンチョウ」ファン垂涎の、驚きの実用性の高さだ。
チャーハン、みそ汁、親子丼などのメシ物、丼物に加えて、餃子や玉こんにゃく、豚肉の黒酢炒めのような居酒屋風一品料理、本編の作中でも異彩を放つブルガリア料理の「ミッシュマッシュ」(ブルガリア風スクランブルエッグ)など。本編で「お、これ美味そうじゃん。食べてみたいな」と思った料理のレシピがズラリと並ぶ。
すべての材料、料理工程がわかりやすく載っているのは(レシピ本なので)当然なのだが、それに加えて「本編に登場した飲食店の内装・メニュー再現」や、原作者からの本編制作の裏話、本編内で「発酵生活」にハマったキャラクター・沼川(大槻の取り巻きの1人)を講師にすえた「沼川の発酵教室」など、遊び心と実用性の高さを併せ持つ関連コラムも充実。本編のファンならば、これだけでも十分、楽しめる。
もちろん登場するレシピには、料理教室のような場所で教わるような、よそ行きのオシャレな料理は一つもなし。むしろ男女を問わず「晩酌のアテを簡単に作りたい」、「夜中に気分転換もかねてチャチャッと作って、小腹を満たしたい」というような「見栄えとかどうでもいいから美味いものを食いたい」という欲を、ほどよく満たしてくれるラインナップばかりだ。
複雑な調理工程はゼロ。もちろん材料や調味料も、普通のスーパーで手に入る庶民的な物ばかり。班長・大槻と年代が近く、自炊にさほど自信のない私のような男性でも「ちょっとやってみようかな」と思えるレシピがズラリと並んでいる。
さらに本書の後半には、実はオジサンも大好きな「喫茶店やホテルの極上スイーツ」を再現したレシピも登場。“ざっかけない料理”のラインナップに、見事に華を添えている。
「ギャグテイストの強い漫画作品」発のレシピ本と侮るなかれ。流行のネットミームを借りれば「そうそう、こういうのでいいんだよ」と言いたくなるような、実用度の高い“一人暮らし応援レシピ本”と言える。
レビュアー
編集者/ライター。1975年生まれ。一橋大学法学部卒。某損害保険会社勤務を経て、フリーランス・ライターとして独立。ビジネス書、実用書から野球関連の単行本、マンガ・映画の公式ガイドなどを中心に編集・執筆。著書に『中間管理録トネガワの悪魔的人生相談』、『マンガでわかるビジネス統計超入門』(講談社刊)。