妹のためにドン底からの大金獲得を目指す高校生の物語
主人公の佐藤満樹(さとうみつき)は18歳の高校生。2年前から両親がおらず、病弱な妹・幸恵(10)と二人暮らしだ。必死のアルバイトでなんとか生活費を稼いで入るものの、治療に保険がきかない難病をいくつか抱えている妹の医療費を考えると、まったく足りていない。
少しでも金を稼がなければ、と考える満樹は、「副業で稼いでいる」とSNSでアピールしている小学校時代の同級生・鹿野に会うことに。しかし鹿野は実はマルチ商法の元締めだった。仲間入りを断った満樹は、鹿野とその仲間たちに襲われ、逆に有り金を奪われてしまう。
その日の夜、公園のベンチで頭を抱えていた満樹のもとに、妙に馴れ馴れしいほろ酔いの女の子が現れる。見ると、前日に満樹のアパートのピンポンを押して「ビールの缶を空けてほしい」とだけ頼んできた変人だった。
「昨日のお礼に愚痴を聞くよ」という彼女に、満樹は旧友にダマされ、暴力で金を奪われた話を打ちあける。そして「探偵だ」と名乗る彼女に、金を取り戻す方法を相談。「暴行を受けた証拠はないか」と問われ、満樹は驚異の「写真記憶」の能力を発揮。現場にあった防犯カメラの位置を詳細に説明する。
満樹の能力を知った彼女・今畑苗(いまはたなえ)は、満樹を自らの探偵助手に勧誘。「俺だったら残りの高校生活7か月でいくら稼げる?」と問う満樹に、苗が答えた金額は「三億円」だった。
あまりの金額に、苗を「怪しい」と疑う満樹。しかし、ひと悶着を経て、満樹は彼女の下で働くことを決意する。これはドン底から大金を目指して這い上がろうとする高校生の「サクセス・ストーリー」である。
元手もなしに「7か月で三億円」って、どうやって稼ぐの?
満樹に救いの糸を垂らしたかのように見える探偵の今畑苗だが、単行本1巻の時点ではまだその探偵としての能力をはじめ、詳細の設定は謎に包まれている(唯一、法律関係の資格を持っているらしいということだけは判明している)。
●「妹を幸せにするために、とにかく金が必要だ」と考え、お金への執着が非常に強い満樹。
●SNSで成功者としてアピールしていたが、やっていたことはマルチ商法の親玉だった満樹の小学校時代の旧友。
●金に困っている満樹を「働かせてやっている」と恩を売りながら、満樹のアルバイト代をごまかして最低賃金以下で働かせ、私腹を肥やしていたバイト先の居酒屋店長。
●家庭の貧乏さに耐えきれずパパ活に手を出し、徐々にエスカレートしていってついに拉致事件に巻き込まれた、満樹の同級生である女子高生(この拉致事件が、満樹の探偵助手としての最初の案件になっている)。
満樹を取り巻く登場人物は、(苗を除いて)さまざまな理由はあれど「金への執着が強い人たち」が多い印象がある。しかし、我欲のみが突出しているほかの人たちと比べ、もっとも切実な状況にありながらも人から施しを受けようとはせずに「必要な金は自分で稼ぐ」という満樹の強い信念は魅力的だ。満樹は写真記憶の能力以上に「この信念」があるからこそ、主人公としての資格があるように感じる。
タイトルから言っても「満樹が高校生活の残り7か月で三億円を稼ぐ過程」が描かれる作品になりそうだが、いかに写真記憶の能力がレアであろうが、普通に考えて探偵助手の仕事で「7か月で三億円」を手に入れられるとは思えない。
満樹は本当に、残り7か月で三億円を稼げるのか。はじめに「三億円」という金額を伝えた苗の目には、いったい何が見えていたのか。それは、今はまだ謎である苗の探偵としての能力と関係しているのか。あまりに読めない今後の展開が、楽しみで仕方がない。
レビュアー
編集者/ライター。1975年生まれ。一橋大学法学部卒。某損害保険会社勤務を経て、フリーランス・ライターとして独立。ビジネス書、実用書から野球関連の単行本、マンガ・映画の公式ガイドなどを中心に編集・執筆。著書に『中間管理録トネガワの悪魔的人生相談』、『マンガでわかるビジネス統計超入門』(講談社刊)。