法の番人、異世界に転生する
ファンタジーの世界は無法地帯だから成り立つのだろうか。ひょっとして、法律があっても大丈夫というか、むしろイイ感じになるんじゃなかろうか。異世界転生した検事が異世界でも「法の番人」となって法廷劇を繰り広げる『法の番人は守る世界を選べない』を読むと、そんな手応えを感じる。あと国家資格ってすばらしいなあ。国というか世界が違ってもちゃんと役に立ってる!
エルフが「異義あり!」と叫び、対する男が「裁判長、意図を説明します」なんてサラリとかわす。男の名前は“中村勇気”。元の世界では、正義感あふれる検事だった。
大企業の社長が起こした交通事故と背後にある政界の闇を追っている最中だったが、
なんだか裏がありそうな交通事故で命を落とし、気がついたら異世界の女神さまが語りかけていた。女神さまは、異世界勇者として中村にやってもらいたいことがあるらしい。
ベストな人選だ。中村は正義感の強い法律家だからだ。
元の世界で果たせなかったことを、異世界“イデスガルド”で成し遂げる……でもどうやって? 本作は「ファンタジーの世界に法律を持ち込むとどうなるか」を大真面目に展開する。これがとてもおもしろい。
「聖法典ロッポー」を作ったはいいが、正しい運用ができていない。
法曹不足にあえぐ異世界が中村を必要としたのは、至極もっともなのだ。
異世界勇者、殺人罪で訴えられたドラゴンを弁護する
法曹系の異世界勇者こと中村の最初のミッションはこちら。
殺人罪で訴えられた“破壊竜ディアゴルム”の弁護だ。ディアゴルムの言い分はこう。
ファンタジーの世界でよくありそうなエピソードだが、聖法典ロッポーが定められたこの世界では裁きを受けなければならない。「殺すつもりはなかった」「私は宝を守っていただけ」というディアゴルムの弁護を引き受けた中村は、異世界の刑事裁判に臨む。
法廷にいる人びとのディアゴルムへの心証は最悪。「有罪で決まりだろ」という空気がムンムンしている。さあどう戦う。
天秤はどちらに傾く?
本作の裁判をよりおもしろくする仕掛けがこちらだ。
審理の真っ最中に「裁きの天秤」が左(有罪)と右(無罪)に傾くのだという。裁判員たちの考えがリアルタイムで表現される。そして「人を殺した破壊竜」への印象は……?
まだ証人が話してもいないのにコレ。やっぱり不利な裁判! だが、こうなることを中村はちゃんと見越していた。
ディアゴルムの容姿を裁判員にウケる姿にチェンジ! 印象、新たな証言、ハッタリ。中村は使えるものをすべて使って裁判を戦う。
中村は静かに静かに駒を進め、やがて有罪に傾いていた裁きの天秤が大きく動き始めるが……?
ファンタジーの世界を忠実に作り上げながら、最後の最後まで油断できない逆転法廷劇が展開される。本作の監修を担当した弁護士の的場遥氏による巻末書き下ろしコラムを読むとますます本作のよさがわかる。
そうそう、2巻の予告ではこんな言葉が躍っていた。
次なる仕事は、マヨネーズの製造販売を牛耳り、
奴隷の少女に乱暴を働こうとする悪徳貴族を、
検事として独占禁止法違反で断罪すること…!
ドラゴンを弁護するために豪腕をふるった中村が、次の仕事では検事側に! うわー、絶対おもしろいでしょ! 読むしかない。
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
X(旧twitter):@LidoHanamori