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2024.05.11

レビュー

見た目が大事? ビッチは損? 残酷な真実を突き付けまくる生物学ラブコメディ!

恋愛、それは残酷な戦争である

その日、高校教師の久慈弥九朗は落ち込んでいた。5年ぶりにできた彼女に浮気されたのだ。
その理由とは……

やっぱアレか? マッチョか。胸板厚いのがいいのか。体育会系な。はいはい。で、ちょっとワイルドで、しょっぼい気づかいで「優しいのね!」なんて思うわけだ。こちとら気づかい純度100%で生きてきたけど、なーんもいいことなかったよぉ!
と、このひとコマに怒りを覚えたあなた。
本作は、そんなあなたのための漫画です!

主人公の久慈は、これまで「男属性」と無縁の人生を歩んできた。かといって特に美形でもなく「男としてイケてない」が切実な男。しかし、今はジェンダーフリーの時代なのだ。世界は変わる、考え方も変わる……、はずだ(と思いたい)。問題はそれが「今」変わるのではなく「いつか」変わる(と願いたい)ことだ。その時代のはざまで生まれたのが、いわゆる恋愛弱者。そのど真ん中をいく生徒が言う。

行き着くところ、そうだよな……、やっぱり。
そこに自称・生物「学」部の部長、阿加埜が議論に割って入る。

阿加埜は言う。
なぜクジャクのオスは長くてキレイな尾羽を持っているのか? クジャクは尾羽のせいで上手に飛べないし、天敵にも見つかりやすい。いいことなどなにもない。ただひとつ、メスに好かれる以外は! なかには尾羽の短いオスが好きなメスもいるかもしれない。しかし、生まれるのは尾羽の短いクジャク。そういう進化の過程で尾羽の短い遺伝子は途絶える。それが残酷な「性淘汰」という現象だ。



同時に阿加埜は言う。「だからこそ生物学を学ぶんだ」「生物学さえ学べばモテ方が分かる!」と。整形もよし。マッチョになるもよし。見た目だけ整えても仕方ないという考え方を捨てよ! 「モテてるふりをする」というのも(生物学上は)モテる上で有効な手だとも言う。

先生と生徒。禁断の関係に久慈は怯む。そして逃げ出す。

本作は、「男としてイケてない」が切実な高校教師と、尾羽が短いほうが好きだという生物学的に遺伝子を残しづらい女子高生のラブコメディだ。

男にも女にも向けられる(生物学上の)刃

恋愛弱者男子の理屈を生物学的に論破した阿加埜さんだが、学校にも通わず夜な夜な遊び惚けているビッチにも厳しい。

圧倒的な上から目線で、説教されているのは校長の孫娘・三月羅美。久慈は確信犯的なビッチである羅美の更生を、校長から半ば脅迫されて請け負っているのだが……。

ぐっ……。出たな、強者の論理。しかし、阿加埜さんは怯まない。彼女は言う。

(生物学的には)すべての生物は、全く性質の異なる配偶子をかけて「子を作る」という目的に向けて「結婚」という高度な戦略ゲームを行なっている。そのゲームにおいてビッチは場を荒らす存在で、メス全体に不利益を生じさせ、最終的に敗北者となることが確定しているという。

ここに阿加埜劇場が開幕する。芝居のタイトルは「進化的安定戦略」だ。



口説き→子作り→子育てをワンクールとして、得られる得点はオスメスともに2点だ(ついでにプレイヤーはネズミの設定なのでワンクールが短い)。そこで羅美は考えた。

このデスゲーム風「結婚ゲーム」において、羅美は口説きタイムを省くことで得点を重ねる。しかし、この作戦はすぐに他のメスに伝播し、メス全体がビッチ化する。するとどうなるか?

オスは子育てを放棄し、逃走する。

オスは口説きタイムも子育ても省き、子作りだけを行って毎回15点を獲得。その作戦もまた伝播し、オス全体がヤリチン化していく。「うわっ最悪」と思うことなかれ。これが生物学的摂理。メスは本来オスと共に負うべき子育ての-10点をワンオペで負うことになり-20点を失う。よって羅美のビッチ作戦は破綻し、大敗を喫することになる。なんだこれは! 『賭博黙示録カイジ』における限定ジャンケンの展開のようにシビア! 私たちは知らぬ間に、そんな苛烈な恋愛ゲームに放り込まれているのだ。ざわ……。ざわ……。

ビッチはメスの天敵ヤリチンオスを生み、メス全体を破滅に導く。ゆえに嫌われる。

しかしヤリチンオスの栄華も続かない。メスが「どうせマイナスを生むのなら結婚ゲームから離脱しよう」「ゲームを始めなければ(結婚しなければ)ゼロのまま」と考えるからだ。そこにヤリチンオスを駆逐するオスが現れる。それは誠実なオス。ワンクールで得られる2点を確実に獲りにいく誠実オスと、ビッチをやめた恥じらい派のメスによりゲームは初期状態へ戻っていくのだ!



ぐ、ぐぅ……。

別に、本作は「男らしく」「女らしく」というかつての価値観を復活させようとするものじゃない。さらに言えば、生物学的に「自然なことだから」といって男女の“良し”“悪し”を決める「自然主義の誤謬」でもない(詳しくは、漫画『ぜんぶシンカちゃんのせい』(著者:汐里 原作:Rootport)を読もう!)。なにより、この雄弁な主張をしている阿加埜さん自身、生物学的に遺伝子を残しにくい恋愛(つまり久慈との恋愛)を目指して、あがいている人物なのだ。生物学的な摂理に依って立ちながら、それに反する恋愛をしたい阿加埜さんの矛盾。そこにコメディを見出して漫画にするなんて、志が高―い! 

まぁ、そんなつまんない批判は最初からハネつけてるけどね。
だって、タイトルは『あくまでクジャクの話です。』だもの。
タイトル5億点。

レビュアー

嶋津善之 イメージ
嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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