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2024.04.12

レビュー

「〇〇〇が大きいでしょう?」ヒトの性に興味津々な美少女JKとのラブコメ

ラブコメですが、ガチの知識が満載です

清楚系の可愛い女の子のイラストに、「物知り女子高生が、僕の◯◯◯に興味を持って…!?」ってオビの惹句(じゃっく)。正直、少々“よこしま”な気持ちで本を手に取りますよね。
でもですね、その惹句の下にこうあるんですよ。

ヒトの性に興味津々! 進化心理学ラブコメ!

大切なのはココ→「進化心理学」
この作品、ガチも大ガチ、進化心理学についての漫画なのです。
でも「進化心理学ってなに?」って話ですよね。では、漫画の物語に沿って説明しましょう。

ある日の放課後、“微生物男子”を自称する利根川登太は、一生関わることはないと思っていた“生態系の頂点女子”こと山中真歌から「ちょっと手を見せてもらえる?」と話しかけられる。

そして……

ガーン!
彼女が言うには、薬指の長さとペニスの大きさには相関があり(実際、そういう研究結果がある)、薬指が人差し指よりすっごく長い登太は「巨根のはず!!」だというのだ。この真歌のぶっ飛んだ発言に……


お分かりいただけただろうか?
つまり進化心理学とは、「人間の体が、環境の変化や生存・繁殖のために進化したように、心も進化した」と考える学問なのだ。この難しそうな学問をラブコメに落とし込み、誰でも理解できるようにした、いわば進化心理学版の『はたらく細胞』ともいえるのが、この『ぜんぶシンカちゃんのせい』なのだ。

本作の原作はRootport氏。ただものではないと思って調べたら、画像生成AI「Midjourney」を駆使して描いた漫画『サイバーパンク桃太郎』で話題になった作者ですよ! そして、そんなエッジの効いた物語をキュンの詰まったラブコメに仕立てるのは、作画の汐里氏。常にうるうるした瞳の真歌がかわいいです!

さて、話を物語に戻しますと、薬指に関わる研究が本当かどうか検証したい(つまりペニスを測りたい)真歌と、付き合いをしてもいない相手に測らせられない登太。じゃあ、まずは“お付き合い”とやらをやってみましょう、ということになります。

嫉妬、会話の起源、そして自然主義の誤謬

本作には、いろんな知識が登場します。人はなぜ嫉妬をするのか? なぜ、人はチャットにハマってしまうのか? たとえばチャットについて、真歌はこう解説します。




「ほうほう。へぇ~、なるほどね」なんて読んでいたら、最後の一言で「真歌ちゃん、超ツンデレじゃん!」というこの流れ。登太じゃなくても惚れますよねー。

さて、本作に入っている知識のなかで、特に面白いのが「自然主義の誤謬」についてです。物語では、登太が同級生の持ち込んだエロ本を見ているところを、真歌に見られてしまうところから展開します。あたふたした登太は「僕も男なんだから」と言うけれど……

つまり、登太に性欲があるからといって、エロ本を読んでもいいという理屈にはならない!と完全論破されてしまいます。シュン。しかし、登太も負けてはいません。
ある日、クモが苦手な真歌は、こんな話を始めます。





納得してくれる真歌でよかったね。これは普通「揚げ足を取ったわね! キー」って怒られかねないからな、登太! ……と、それは置いておいて。進化心理学を考えるうえで「自然主義の誤謬」というキーワードは、とても大切なのです。

比較的新しい学問である進化心理学は、異なる分野の学者からの批判に晒されました。反証を繰り返し、学問として成熟する真っ当な論争であれば良かったのですが、そうじゃない批判や、誤った理解も多かった。進化心理学が「それは進化の中で生まれた」と説明していたとしても、「生まれつきだから」「自然なことだから」といって“良し”としているわけではありません。それを“良し”と捉える人が多い。特に「男性は……」「女性は……」といった性差の肯定に誤用される場合があって、それは到底肯定できるものではありません。だからこそ「自然主義の誤謬」について、ここまで丁寧に描かれているのではないかと思うのです。

なぜ人は人を好きになるのか? それはやはり進化心理学のいうところの「生存」や「繁殖」のための心理なのか? いやいや、そんなものじゃないのか? 登太と真歌がどんな解答をするのか楽しみです。

レビュアー

嶋津善之 イメージ
嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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