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ハラスメント、コンプライアンス……逃げるが勝ち! 中間管理職ギャグ爆誕!!

高田教頭の脱出(1)
(著:エドモンド 田中)
2023.07.29
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『高田教頭の脱出』。このタイトル、そして勇ましくガラスを破り飛び出す高田教頭の姿に、いったいどんなアクションコミックなんだろうと想像をかき立てられます。

確かに高田教頭は何度となく窮地に立たされ、都度脱出を試みるのですが、その窮地というのは、命を狙われるたぐいではありません。職場や家庭、あるいはこの世界における立場を失う、社会的死の危機。見方によっては、命と同じくらい、いや、命より大事なものです。

第1話。いきなり公衆トイレの便座にハマり、動けなくなった高田教頭のモノローグから物語は始まります。

読者と初対面であられもない姿をさらす高田教頭。しかし、この状況をさらに悪化させる情報がもたらされます。



冒頭で、社会的死の危機、と書いた意味がおわかりいただけたでしょうか。あんなに雄々しい表紙とのギャップもすさまじいオープニング。慌てて駆け込んだため、昨今のオシャレなトイレマークを見間違えて女子トイレに入ってしまった高田教頭。

藁(わら)にもすがる思いで、こんなサプライズキャストにすら、感謝してしまいます。

トイレに住まう地縛霊(?)を「救いの女神」と呼ぶ高田教頭の精神状態が心配。ナチュラルにコミュニケーションするふたりのやり取りはまるで漫才のよう。もう少しこのボケとツッコミを味わっていたいところに、急転直下の嫌な音……!



ドアをノックするのは誰だ?



親切が人を殺す──。この言葉がこれほどまで胸に突き刺さる場面を私は他に知りませんん。

絶体絶命のピンチを救ってくれた幽霊と芽生える交流、そして高田教頭の想いが、ひとつの奇跡を生みます。

この事態に陥ってなお、本分である教師としてのスピリットを忘れない高田教頭、立派です。ほぼ全裸で女子トイレの便器にハマっているなど露とも感じさせない、凛々しさたるや。

高田教頭の窮地はこれだけではありません。修学旅行の下見で京都へやってきた一行。同僚の武本主任に連れられて入ったお店はキャバクラ。妻に申し訳が立たない、と席を立つ高田教頭ですが……。



ナンバー2の嬢・アキナに圧倒された高田教頭は、気づけばお酒を入れ、連絡先も交換するなど、あれよあれよとキャバクラの世界へ引きずり込まれていきます。しかし、なんとも間の悪いことに、実家が京都だというPTA会長ご来店です。キャバクラで遊んでいるところなど見られたら完全アウト。なんとかバレずにその場をしのいだ高田教頭は、同僚たちに事情を説明し、アキナの手も借りてこの場からの緊急脱出を試みます。ところが。



いくつもの不運が重なり、これ以上ないほど注目を集めてしまった高田教頭。この後、アキナが機転を利かせて無事脱出……となりかけるのですが、アキナの尻を触るPTA会長の姿が目に飛び込んできた高田教頭は、打算よりも先に教師としての本能が働き「その手を放したまえ!!」と叫んでしまいます。



よからぬことをした1人の男を土下座させる3人の教師の図。勧善懲悪、めでたしめでたしなシーンながら、しかしここはキャバクラ。このひねくれた構造が可笑しさを誘います。窮地からの脱出に成功した高田教頭。しかし――。



いちばんバレたくなかった、愛する妻にキャバクラ行きを知られてしまう最悪の結末を迎えてしまうのでした。

また、とある日にはこんなピンチも。



水分量にまで言及するあたり、冷静に現状把握できてます。本来、全校集会では校長がスピーチするのですが、校長不在のため代理で教頭がスピーチすることに。校長から託された内容は無駄に長い……。早めに終えるべく試行錯誤するなかで、とある女子生徒が貧血で倒れてしまいます。この機を逃す教頭ではありません。話の途中ですが、生徒のため、そして自分のためにビシっとスピーチを切り上げます。生徒からは歓声も。

鬼ですか。

思わず甦る私の過去。中学時代、それこそ水分度の高い便意に襲われながら全校集会に参加した、あの日。学級委員だったためクラスの先頭に並ばざるを得ず、集会の途中でこっそり離脱することもかなわず。校長挨拶が終わり、ホッとした私の耳に飛び込んできたのは「次は表彰状授与を行います」という悪魔のアナウンス。

高田教頭、あなたの気持ちは痛いほどわかります……! どうか耐えてほしい!!

便意に襲われる全校集会という戦場を乗り切った戦士・高田教頭が辿(たど)った結末を、ぜひ本書で確認してみてください。

教師、そして愛妻家としての日常のなかに突如顔を覗かせる社会的死の危機。他人事とも思えないエピソードもありつつ、高田教頭がこれらの窮地をどう脱出するのか、あるいは脱出に失敗するのか――。

笑いあり、そしてちょっぴり悲哀ありのコメディで、ストレスフルな日常からいっときの“脱出”をぜひ。

  • 電子あり
『高田教頭の脱出(1)』書影
著:エドモンド 田中

長い人生、数えきれないほどのピンチが訪れる。それは学校にとって重要な地位である「教頭先生」でも同じ。学校と生徒に挟まれ、もがく中間管理職だからこそ、時には「逃げる」ことも大切だよ……ということを、体を張って教えてくれる全力中年ギャグ漫画、ここに爆誕。これは「読むと勇気が湧いてくる現代人の処方箋」か!?

レビュアー

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ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
twitter:@hoshino2009

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