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幕末外交の影の功労者! 現代の通訳「通詞」を志す少年のお仕事青春ドラマ
(著:川合 円)
ペリーの来航により締結された「日米和親条約」。下田・箱館の2港を開港し、約200年続いた鎖国に終止符が打たれたことは、日本史で習ったと思います。
「泰平の眠りをさます上喜撰(蒸気船)たった四盃で夜も寝られず」
この歌にもあるように、突然の黒船来航に幕府も人々も慌てたと授業では習ったのですが、実は幕府は事前に情報を得ていたこと、条約締結にはオランダ語の通詞(通訳)があたったことを最近になって知りました。
そのときの通詞が、森山栄之助と堀達之助。
この実在する人物が『とつくにとうか 幕末通訳 森山栄之助』の主人公なのです。
長崎でオランダ商人を相手に「通詞(つうじ)見習い」をしている森山栄之助(15歳)。
将軍への献上品をたずさえて、4年に1度の「江戸参府」のために、オランダ商人たちと共に江戸に向かっていました。
通詞の仕事は通訳だけではありません。長崎にいるときは貿易交渉、商品の買付け、会計業務。
江戸参府では、オランダ商館長(カピタンと呼ぶ)や書記官たちの世話、道中の帳簿の整理、献上物の品数あらため、目録提出、さまざまな書類の作成と多岐にわたっていました。
第1巻では、その道中での出来事や、将軍に謁見し長崎に帰るまでの様子が描かれているのですが、これが知らないことだらけでメチャクチャ面白い!!
江戸時代の人々は、初めて見る異人に対してどう思い、どう接したのかは、私も気になったので調べたことがあります。
そのときに知ったのが、葛飾北斎が描いた『画本東都遊(えほんあずまあそび)』。
江戸で自由に外出できなかったオランダ人を見るために、興味津々で集まってきた人々が描かれているのですが、その絵がこの漫画にも出てくるじゃないですか!!
『とつくにとうか 幕末通訳 森山栄之助』は、史実に基づいたエピソードがあちらこちらに散りばめられていて、当時のリアルな様子を知ることができます。
このように、当時は異人を怖がらない人もいれば、毛嫌いする人もいたため、オランダ商館にも“手引き書”があったというのも驚きです。
「多くの日本人にとって我々は未だ外つ国(とつくに)のケガレである」。
この漫画のタイトルの“とつくに”とは、外国のことだったのですね。
初めて日本にやって来た書記官ヤン(20歳)は、栄之助たちにも親しみを持って接するのですが、商館長(カピタン)は違いました。
でも、これには深いわけがあり……。
「江戸参府」後、ヤンは報告のためオランダに帰ってしまうのですが、17年後、カピタンとして再来日します。それは、ペリー来航の1年前。
これを知って、なるほど! だからか!! と合点がいきました。
この歴史的事実がお話にも出てきそうなので割愛しますが、きっと二人の関係性が、後の日本に大きく影響したに違いありません。
とにかくこの漫画は、私が知りたかったことがいっぱい出てきます。
オマケの4コマ漫画に出てくる「府中名物・安倍川餅が5文」など、当時の物の値段がわかるのも有り難い!!
また、栄之助たち通詞が語学を学んだのは、我が国初の辞書『ハルマ和解(わげ)』や『ドゥーフ・ハルマ』だったことを知り、驚きました。
実は私が通っていた高校はどちらも所蔵しているのが自慢ですが、これらがオランダ語の辞書であること、全13巻、全58巻もあったことを今回初めて知りました。いやはや、もう笑うしかありません!!
やはり史実に基づいて書かれた漫画は面白い!! 特に『とつくにとうか 幕末通訳 森山栄之助』は、期待を裏切らない面白さだと思います。
- 電子あり
鎖国の時代、通訳者は「通詞(つうじ)」と呼ばれた。
真面目で熱心なタイプの森山少年は、時々空回りしながらも考え続けて伝える努力ができる、期待の通詞見習い。
彼はやがて成長し、後にペリーやハリスとの交渉の場に立ち会う幕末外交の影の功労者となる!
幕末時代の最先端の仕事の中で笑い、泣き、時々傷ついてもまた顔を上げ、職業人になっていく。 強くて優しい、幕末のお仕事ヒューマンドラマ!
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp
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