坂本龍馬と新選組。この組み合わせは、小説や映画やドラマで何度も取り上げられているので、よほどのことをしない限り目新しい展開は期待できないと思っていたのですが、『無限の住人~幕末ノ章~』は思いもよらない設定で、「おお、そう来たか!」と驚かされました。
まず主人公の万次。背に「卍」模様があしらわれた着物にブーツ姿、サンフランシスコから土佐に戻り、英語を教えている中浜万次といえば、鎖国の世にアメリカへ渡り、後に日本でも活躍したジョン万次郎を彷彿とさせます。
ところが、ジョン万次郎という名前は知っていても、何をした人なのかというと正確に答えられない私。でも、そこがいいのです。両者をダブらせて、空想をかき立てることができるからです。
もちろん、万次とジョン万次郎は違うのですが、アメリカ帰りの法螺吹きという設定が妙にマッチしていて、坂本龍馬と初めて出会うシーンは洒落ています。
龍馬「失礼じゃが、万次先生のお歳は……?」
万次「百を超えてからは数えるのもやめたよ」
いかにも法螺吹きが言いそうなセリフに、私もハイハイと笑いながら見ていたのですが……。
なぜ、万次は死ねない体になったのかというと、上役に騙され罪なき人々を何人も殺し、その上役まで斬ってしまったという過去が関係しています。
これを聞いた龍馬は、将来、日本が外国と渡り合うためには万次の力が必要だと言います。
一人でも多く有為の人材が必要ぜよ。
万次さんの不死の力で命を一つでも多く救って欲しいんじゃ
こうして2人は、新選組が跋(ばっこ)し、物騒な街となった京へと上ります。
そして、土佐勤王党の党首、武市瑞山(武市半平太)に万次を引き合わせる龍馬。
歴史上の武市瑞山といえば、尊王攘夷を唱える過激派で、世の中の流れが公武合体や開国へと向かう中でも一貫して考えを曲げず、投獄されたあげく切腹を命じられ、非業の死を遂げた人です。
京の都に火を放ってでも尊王攘夷を推し進めようとする武市瑞山を、納得はいかないまでも護らなければと思う万次。
一方、新選組では総長の山南敬助が自害しようとしていました。刀を持つことすらできない傷を負ってしまった自分は生きていても仕方がないと思ったからです。
しかし、近藤勇、土方歳三、沖田総司の説得により「不死の力」を得て生き延びることを決意します。ただし、表舞台からは消え、裏の仕事を果たす「逸番隊(いつばんたい)」として。
ここに登場するのが、小柄で少女にしか見えない綾目歩蘭(あやめ ぶらん)。歩蘭は、「血仙術(けっせんじゅつ)」という不老不死の術を施すことができるというのです。
この話を訝(いぶか)る土方でしたが、大昔「血仙術」を施され「無限の命を持つ侍」が、すでにいると言う歩蘭。
万次、山南、歩蘭が繋がり、一気に面白さが加速します。
一説には、実際の山南敬助も腕に大怪我をし、それが後の人生にも影響したのではないかとも言われています。そして最期は、切腹という不本意な亡くなり方をしているのですが、ここでは無限の命を持ち裏で生きることになります。
この設定に新選組贔屓ではない私ですら、「そう来たか!」と思ってしまいました。これだから歴史をベースにした漫画は面白い!
でも考えてみたら、万次と山南は敵対する勢力。それなのにどちらも「不死の力」を得てしまったわけです。
武市瑞山を捕らえた山南たち「逸番隊」は、いずれ龍馬も狙うでしょうから、そのとき万次はどう戦うのか、龍馬vs.新選組だけでなく、三つ巴にも四つ巴にもなりそうで楽しみです。
『無限の住人』は20年近く連載され、シリーズ累計580万部を突破、アニメや舞台や映画にもなった漫画です。その公式続編(スピン・オフ)である『無限の住人~幕末ノ章~』は『無限の住人』の流れを汲んでいるので、それを確かめながら読んでよし、もちろん初めて読んでもよしの漫画だと思います。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp