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綺麗事では生き残れない“騎士道残酷物語”。古代イギリスアーサー王伝説異譚

皆殺しのアーサー(1)
(著:古閑 裕一郎)
2020.02.22
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アーサー王と円卓の騎士の物語と言ったら、映画やゲームなどで触れたことがある、親しみ深い題材ではないかと思います。アーサー王が実際に存在していたかも含め、今も多くの人々を捉えて離さない、普遍的な物語です。そう、いうなれば「みんな大好き、アーサー王の伝説」。
近年ではパズドラであったり、Fate/Grand Orderであったりと、アーサー王伝説の登場人物を描いた作品が人気を博しており、直接物語に触れたことがない読者でもなにがあったか、どういう話があったのかが知られているテーマでもあります。
なので一般的な印象としては、騎士道を紡いだ物語で有るからこそアーサー王は高潔で、わかりやすいヒーローとしてのイメージがあるのではないでしょうか。
が、古閑裕一郎が描くアーサー王は一味違います。なぜならタイトルからした「皆殺しのアーサー」ですから。邪智暴虐の暴君として描かれています。自らの凶暴性を隠そうともしない、恐怖と力で支配するまさに暴君なのです。

本作の主人公は、アーサー王ではなく、円卓の騎士の一員として知られているモルドレッド。伝説で語られるモルドレッドはアーサー王の不義の息子でしたが、ここではエクスターの騎士。
物語はアーサー王率いる軍勢がエクスターに援軍として到着するところから始まります。



サクソン軍の猛攻を受け、陥落寸前となったエクスターに現れたアーサーの軍勢は、鬼神のような強さでサクソンの軍勢を退けます。強力な援軍を得たと喜んだのも束の間、アーサーは「力無き者はいらぬ」とエクスターの王の首を刎ね、反発する者たちを素手で引き裂いて恐怖で支配し、エクスターで最も強い者であるモルドレッドを円卓の騎士に迎え入れようとします。



さて、モルドレッドといえば、アーサー王伝説の「アーサー王の死」において、叛逆を起こし彼を討った人物でもあります。その伝説に照らし合わせてみると、いずれはカムランの戦いにおいてアーサーを討つ結末が予想されるのですが……。とはいえ今はまだ全く展開に予想がつかない状況なので、これからモルドレッドを待ち受ける苦難がいかほどか、想像がつきません。まさに騎士道残酷物語。

そしてモルドレッドを語る上で欠かせないのが、同じく円卓の騎士に名を連ねるランスロットです。伝説ではアーサーの妃と不倫して円卓の騎士を崩壊に追い込んだ張本人ですが、ここでは狡猾な策士としてモルドレッドの弱みを握り、暗躍しそうな気配を見せてきます。

伝説上のモルドレッドの弱みといえば、アーサー王の不義の息子であるということでしたが、本作のモルドレッドには一味違った設定が用意されています。ランスロットが意味ありげに告げる胸にある刺青とは何なのか。それはぜひ直接その目で確かめて欲しいのですが、その刺青に関わる秘密によって、ランスロットの飼い犬としても従わざるをえない状態を余儀なくされてしまいます。
伝説にはランスロットとモルドレッドの逸話がたくさんありますが、この新たな設定と関係性によっていかに葛藤の中で従うエピソードが語られるかにも期待が高まります。

大切なものを守りたければ力を求めよ 決して恐れるな そして──
己が手を血で汚せ
人はそれを英雄と呼ぶ



冒頭で述べられたこのフレーズは、巻末ではガラリと意味合いが変化します。緻密に張られている伏線の展開は見事ですし、細部まで丁寧に描かれている画は物語に圧倒的なリアリティをもたらしているので必見です。
アーサー王の物語は時代とともに、紡ぐ人によって、姿を変えるといいます。ですから本作もアーサー王伝説の1つの物語であり、語り継がれていくものになるのではないかと感じるのです。
この先登場するであろう他の円卓の騎士たちがどのように関わっていくのか、そしてモルドレッドがどのように結末に至るのか。じっくりと見守っていきたい作品です。

  • 電子あり
『皆殺しのアーサー(1)』書影
著:古閑 裕一郎

古代イギリスに現れた救国の英雄“アーサー王と円卓の騎士”──。
騎士モルドレッドは、サクソン人の侵略によって窮地にある祖国ブリテン島を守るため、恐るべき力を持った「アーサー王」に希望を見出すが、ブリテン島全土に轟くその勇名には隠された裏の姿があった……!
綺麗事では生き残れない”騎士道残酷物語”の幕が開く!!

レビュアー

宮本夏樹 イメージ
宮本夏樹

静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。

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