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講談社『まんが学術文庫』は、哲学や宗教の難解な原作のおおまかな内容を翻訳、解説ではなくストーリー「まんが」という形でまとめたシリーズ。しかも、おもしろくて、ためになり、わかりやすいのが特徴です。そんなまんがを読書家の柴田さんはどう読む?
1993年4月1日生まれ。愛知県出身。金城学院大学卒。2010年から6年間、SKE48に在籍。2016年に卒業し、フリーアナウンサーへ転身。現在は「ウイニング競馬」(テレビ東京系)司会、「チャント!」(CBC)火・水サブキャスター、「けやきヒルズ」(AbemaTV)月・火・金キャスター、「AbemaPrime」(AbemaTV)木曜キャスターにレギュラー出演中。
入社以来、少年まんが・青年まんが一筋の編集者として活躍。月刊少年マガジンでは、「名門 多古西応援団」「鉄拳チンミ」を、週刊少年マガジンでは、「名門 第三野球部」、「風のシルフィード」、「マラソンマン」、「ブレイクショット」などのヒット作を生み出す。その後、ミスターマガジン、ヤングマガジンの編集をへて現在「講談社まんが学術文庫」編集長。
幼稚園の頃からの読書家……月の読書量は10〜20冊!
石井:柴田さんは読書好きとして知られていますが、いつごろから本を読み始めたんですか?
柴田:読書を始めたのは文字を覚えた幼稚園くらいです。近所のスーパーに絵本が置いてあって、いわゆる児童書というか、半分が文章で半分が絵の本だったんですが、それが読み放題だったんです。母が買い物してる間に、そこで本を読んで待っていました。『花咲か爺さん』のような日本の昔話から『ヘンゼルとグレーテル』『人魚姫』など海外の童話まで、幅広く置いてありました。
石井:幼稚園から……筋金入りですね! その後の読書歴は?
柴田:小学5年生くらいからドラマの原作に挑戦し始めて、『白い巨塔』(山崎豊子)とか『黒革の手帖』(松本清張)を読んでいました。当時は意味が分からないことも多かったんですけど、ドラマを見ながら読んでいたので、読書ではわからなかったことがドラマで補完されて、また違う楽しみがありました。それと、うちの学校の図書館では本を借りると手作りのしおりがもらえたんです。それが欲しくてよく通っていました。
中学生になって電車通学になったので、その合間にも読んでいました。その当時、『"It"と呼ばれた子』(デイヴ・ペルザー)という小説が流行ってたんですよ。実母から虐待を受けた自らの体験を綴った本なんですけど、そこから暗いテーマのものやミステリーも読むようになりました。中高生時代にハマったのは東野圭吾さんとか湊かなえさんですね。
SKEに入ってからは移動中に読んでいたんですけど、仕事が忙しくて読む時間が減りました。卒業してからは、今が一番読んでいます。ジャンルは幅広く、ビジネス書が多いです。最近はNews Picks Bookにはまってます。
石井:すごいですね。1か月に何冊くらい読まれるんですか?
柴田:少ない月だと10冊くらいですかね。
石井:え? そんなに?
柴田:でも、20冊くらい読むこともありますよ。最近は量にこだわるのはやめていますが。
石井:人生を決めるような強い影響を受けた1冊ってあるんですか?
柴田:『マインドセット』(キャロル・S・ドゥエック)です。物の見方についてなんですけど、「自分は成長できる」っていうマインドセットだったら何でもできるし、「自分の能力は変わらない」っていうマインドセットだったら失敗を恐れて挑戦しなくなっていくという話なんです。スポーツ選手とか起業した人のマインドセットの違いを読んで、私はそんなに頭が良くないけど、「変われるんだ」っていうことを忘れそうになったときに読みます。
石井:そんなに読まれるなら、出版社に入りたいって思ったことはないんですか?
柴田:考えたことはありませんが、今日、初めて本に関してお話ができてよかったなってすごく思っています! 小学生のころの自分に言ったら感動するだろうと思うと感無量です!
『群衆心理』で1人で考えることの大切さを学ぶ
石井:今回は講談社『まんが学術文庫』について伺います。基本的なコンセプトとしては、「難しくて途中で挫折しちゃうような名著だけど、みんなが内容を知りたいと思っているものをまんがでわかりやすく伝える」シリーズです。柴田さんは名著と呼ばれる本は読んだことはありますか?
柴田:家の本棚を見たんですが、『君主論』(ニッコロ・マキャヴェッリ)は読みました
石井:何歳くらいのころですか?
柴田:上京したころです。マキャヴェリズムってなんだろうと思って。
石井:興味を持って読み始めても途中で挫折した人はたくさんいる本ですね。日本人は真面目で、名著をわかりたい欲求をみんなが持っているんですよ。それに応えるために難解な文学や哲学の大まかなストーリーをまんがにしたのが『まんが学術文庫』なんです。『まんが学術文庫』の中で読まれた作品の感想を聞かせてください。
柴田:もともとこのシリーズの『群衆心理』(ル・ボン)を持っていたんです。人って群れることの恐ろしさってあるんだなっていうことがすごく印象的でした。これは18世紀フランスのマリー・アントワネットの時代の話なんですけど、現代にも当てはまりますよね? 街に集まる民衆なのか、それともSNSで発信される言葉なのかっていう違いはありますけど。マリー・アントワネットの子どもの最後とかめっちゃ悲しかったです。人って本当にこんなに残酷になれるのかと思いました。
『群衆心理』を読んで、1人で考えることの大切さと、人ってすぐ間違えるんだなっていうことを学びました。名著は昔の本ですが、書かれているのは今でも役に立つ言葉があります。『群衆心理』なんて全員読んだほうがいいですよ!
Twitterを見てて、なんとなくリツイートボタンを押しちゃうことがありますけど、本当にそれってちゃんと合ってるのか不安になることありませんか? 確かにネットで検索して情報を得ることはとても大事なんですけど、ネットは記事や広告を閲覧した履歴から、その人に合わせた情報ばかりおすすめしてきて、、ネットしか見てない人ってどんどん偏ってしまうんじゃないかと思うんです。「最近の人って本当に本を読まないが、本を読んでいる人はどんどん知識が広がっていく。そこで知識格差ができてしまう」っていうのを読んだことがあって、「これが私が本を読む意味なんだな」と思いました。
石井:『群衆心理』の原作はヒトラーの愛読書だったんですよ。ヒトラーはお金がなかったんで図書館通いをしていたんです。図書館にヒトラーの名前があって何回も借りているというのが最近発見されたらしいです。
柴田:『群衆心理』を利用しようとした人もいるっていうことですよね? 逆にこれを知っていた人はヒトラーの言葉に踊らされない可能性もあって、知ってると知らないの差ですね。
石井:原作も読んでください。厚いんですが柴田さんの知識からすれば楽しくすぐ読めると思います。哲学用語がいっぱいなので、そこはお勉強しなければいけませんが。
柴田:挑戦したいと思います!
疲れたときに開く『幸福について』
柴田:哲学といえばショーペンハウアーの『幸福について』と『自殺について』はすごく好きです。疲れたときに『幸福について』をよく開きます。「人間は他人と合わせようとして自分の4分の3を失う」という言葉が響きました。合わない人と合わせる必要はないんだ。自分の思うように生きればいい。「孤独になりなさい」という言葉も、私は割と1人でいたくてそれを選んで生きてきたので、自分は間違っていなかったんだと思いました。それに、幸せは楽天的に捉えるか悲観的に捉えるかで物事の見ためが変わるということも面白いと思いました。私はどっちかというとそんなに気楽に考えられない方なので。
石井:『まんが学術文庫』の立ち上げにあたり、最初のラインナップ6冊を選んだときに、『幸福について』と『自殺について』は入れたいと思ったんです。哲学者は幸福に関して基本的に書いていないんですよ。幸福とはあくまで主観によるものだからです。哲学っていうのは論理的でないものは論じませんから。でも、我々は悩んだときに哲学に答えがあるだろうと思ってしまうから、僕も中学生くらいからそこを求めていたんですが、答えは書いていなかったんです。でも高校になったときにショーペンハウアーに出会った。
今でも強く覚えているのが、「自殺を考える人っていうのは実はより良く生きたいがために、なぜか反対の自殺を考えてしまう」という言葉。それを高校1年のときに読んでホッとした記憶があったんです。それが脳裏に残っていたんですね。
また、2008年くらいに格差社会という言葉が問題になって、『蟹工船』(小林多喜二)が売れたんですよ。「今の僕たちも『蟹工船』の労働者と変わらないじゃないか。非正規雇用拡大で格差が生まれて、俺らはいいように使われていないか?」と人々が思い始めた。そのころに、不思議なことに『資本論』(マルクス)の原作も売れ始めるんです。ソ連が崩壊した後、ほぼ絶版状態だったのに。つまり、そのころから哲学思想を求める雰囲気はあったんですよ。そんな社会だから、みんなに幸せになりたいじゃないですか。だから『幸福について』は入れるべきだっていうことになったんです。
柴田:そうなんですね。1冊目の『幸福について』は原作と同じ時代が描かれていますが、『自殺について』はショーペンハウアーが転生したという設定で、舞台が現代の沖縄になっていますよね。しかもサーファーのおじいさんって……かなり奇抜な設定!
石井:ありがとうございます(笑)。実は、自殺を考えるほど追い詰められる人は、ある意味まともな人が多いんです。真面目に考えすぎてしまうがゆえに自殺に行き着いてしまうという……。でも、ショーペンハウアーの言う「幸福な人」は、時として「まともじゃない自由な人」だったりする。だから『自殺について』ではショーペンハウアーが現代に転生しちゃって、沖縄で余生を過ごす老人サーファーという自由な生き様のキャラにしました(笑)。
でもそれをチョイスしたのには理由があるんです。先進国で一番自殺者が多いのは日本。そして自殺する10代20代が世界的に見てトップクラス。日本では内戦も何もないのに、僕が20歳くらいのときから世界的にトップなんです。どうしてだろうと思うと、やっぱり日本人は真面目だからではないでしょうか。そこで、若者が入りやすいように、ショーペンハウアーをサーファーという設定にしましたし、彼に師事する「自殺予備軍」の若者も、日本社会で普通にいるような、考え込んで行き詰まってしまう真面目な若者にしたんです。
柴田:確かに日本人は真面目すぎて、自分から追い詰められていくけど、気持ちひとつで人生が変わるってこともありますよね!
重たいテーマもまんが的エンターテインメントで明るく
柴田:『ユダヤ人と経済生活』(ヴェルナー・ゾンバルト)もためになりました。何歳になっても知識の吸収を止めてはいけないんだなっていうことをかなり痛感しました! ユダヤ教の背景やユダヤ人にお金持ちの人が多かった理由もわかりました。しかも何世紀にもわたってる話なのにコンパクトにまとまっていて面白かったです。お金儲けの方法もだけど、人生で成功するのは、いろんな知識を得て答えを知っていくことが大切だっていうのを教えてくれるのがこの本だと思います。自分を律することができない人はダメだとか、怠惰である人はみな貧しくなるとか書いてあるので、サボりそうになったらこれを読もうと思います(笑)。
石井:彼らの言葉は本当に原作に書いてあるんですよ。これは『まんが学術文庫』のほかの本もそうです。「名著」に書かれた言葉って、昔の言葉だから、現代では役に立たないと考えられるかもしれないけど、実は現代社会でも役に立つ言葉があふれているんですよね。
柴田:本当にそう思います。現代でも教訓になる作品が多い! 戦わずに勝利を収める戦略と戦術を描いた『六韜』(太公望)は銀行を舞台に。中国の古典軍略書の『三略』(太公望)は大手メーカーの部長が出向させられるストーリーで、ものすごく身近に感じられました。日本人ってこんな話が好きですよね。
石井:『六韜』のごますりネタは、高校の友人たちにネタの提供してもらった事実を盛り込んでいます。やっぱりどこにもいるんですよね。うちの会社にも……あ、これは言っちゃいけない(笑)。
柴田:ちょっと見方が変わっちゃった(笑)。読み直してみます。重たいテーマかと思わせてユーモアにあふれているのも『まんが学術文庫』の特徴ですね。登場人物もパワフルな人が多いし、読んでみてギャップに驚きました。
石井:だってまんがじゃないですか(笑)。エンターテインメントですよ。うちの会社にも「こうじゃない」とか言ってくる人はいますが、ただでさえ難解なものを扱っていますから、ネガティブな気分で終わらせるのは一切やりません。僕は『少年マガジン』出身で、子どもには未来しかないと思っているので、彼らが希望を持てるまんがを作りたいんです。
柴田:アメリカ成立の背骨となった思想を描いた『プラグマティズム』(ジェームズ)の終わり方はすごく素敵ですね。すっきりしてて。
石井:これを読んで今後の人生にどう生かすかだから、明るい終わりにしました。まんがとして大事なことだなと思います。
柴田阿弥さんのおすすめは、新しい発見があるこの4冊
石井:では、柴田さんほど読書家ではないお友達に、『まんが学術文庫』を薦めるとしたらどれになりますか?
柴田:まずは『群衆心理』です。人って本当に群れると怖いんだなっていうことを学ぶには、これを読むのが一番いいと思います。自分がよく考えないといけないなって見つめ直すきっかけにもなるし、普通に歴史でもこういうことがあったって知ることもできるのでいいと思います。
『幸福について』『自殺について』もぜひセットで読んでもらいたいです。1人になるのが怖い女の子ってよくいるんですけど、孤独こそ自分と向き合えて、自分のために大切な時間なんだということを知ってほしい。『自殺について』に登場する社会人生活に絶望した新入社員の男の子は、どこにでもいるような真面目すぎる日本人なので、行き詰まったときに読んでもらうといいなと思います。どちらも困ったときに力をくれる言葉が多いので、辛くなったときにこれを開いてほしいです。
『ユダヤ人と経済生活』は、知識を得ることの大切さと、お金を稼ぐことをネガティブに捉える日本人が意外と多いので、稼ぐことは悪いことじゃないよっていうのを知ってほしいです。
石井:たくさんありがとうございます!
柴田:原作を読むと難しいけど、まんがで読んで「ああ、こういうことなんだな」って知っておくといろんな見方ができますよね。それが『まんが学術文庫』の良いところだと思います。ここを入り口に原作を読むと、理解しやすいんじゃないかと思いますし。
石井:今後、原作を読んでみたい作品はありますか?
柴田:やっぱりショーペンハウアーはすごく気になります。あと、めちゃくちゃ難しいけどドストエフスキーも読んでみたいです。
石井:今日はどうもありがとうございました!
文:長迫 弘
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