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骨肉腫で片足を失った女子高生の青春パラスポーツ漫画『ブレードガール』

2019.02.17
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2020年。東京ではオリンピックとパラリンピックが開催されます。目の前で鍛え抜かれたアスリートが競技します。

前回のパラリンピックで、トラック競技の「ブレード」をテレビで見てから、すっかりその競技のファンになりました。選手の走る姿がとても美しく、そして速い! そのスピードに驚きました。

ブレードはスポーツ用義足を付けて陸上のトラックを走る競技です。生まれつきや病気、事故などで足を失った人が、義足部分にカーボンで作られた軽量の板バネ(ブレード)を装着して走ります。


今日ご紹介する漫画『ブレードガール』は、このブレードという競技に挑戦する女の子の物語です。主人公は高校生の春風鈴(はるかぜりん)。骨肉腫で右足を失い、そこから義足の生活が始まります。


■足を失った少女が出会った義足のランナーたち

足と共に失った日常を受け入れることができず、心を閉ざし気味の鈴。リハビリの途中、見かねた理学療法士が義足技師を紹介したいと言い出し、施設へ見学に行くことに。そこで義足のランナーたち「ブレードランナーズ」に出会います。

みんな何らかの事故や病気で足を失った人たち。足には見慣れない器具を装着しています。活き活きと走る彼らに、鈴は自分との違いや差を感じて動揺します。

施設で説明を受けると、彼らが足に付けているモノが「ブレード」と呼ばれる、走るための特殊な器具だとわかります。「また自分の足で走れるかもしれない」。鈴は胸に希望を抱きます。ブレードの専門技師・風見に足のない苦痛と弱い自分の本心を見抜かれ、走ること、前に進むことを望む鈴は、自分の力で走り出します。

風を感じること、転べること。己の力で立ち上がって走り出すと、閉じこもっていた心が開放されていきます。鈴は自分の力で走ることを選びます。

■ブレードで走り始めて、少しずつ開いていく心

風見の下で、ブレードで走ることを覚えていく鈴。だんだんとカーボンの弾力やバネの動きを身体でつかむようになります。内に閉じていた心は、カーボンの新しい足と共に、自らが生み出す風によってどんどん外に開いていきました。

もともとは明るく元気な性格の鈴は、笑顔を取り戻し、走るという希望を見出します。鈴の明るさや粘り強さにふれた風見も、鈴に可能性という光を感じ始めます。

ブレード技師の風見にも密かな夢があります。それはパラリンピックで自分の作った義足の選手にメダルを取らせるだけではなく、健常者に優る速さで走れるブレードを開発すること。無謀とも思えるその野心の奥に、本心を隠しているように見えます。

「風になりたい少女」と「風を創りたい技師」のふたりはこうして出会いました。

ブレードランナーというスポーツは、現在も進化を続けていて、記事を探せばネット上に多くのニュースがあります。いろいろな条件でグレードが細かく分かれていて、走る動画を見ると、そのフォームの美しさに息を呑みます。

日々の科学技術の進歩によって新素材が開発されるので、改良されるブレードの説明を見るだけでも感動します。

『ブレードガール』では、取材に基づくブレードの器具や競技の説明が丁寧に描かれているので、漫画でしっかり学べば、東京パラリンピックで本物のアスリートが走る姿を応援することができそうです。私も2020年が待ち遠しいです。

この先、ふたりからどんな風が生まれるのか。続きがとても楽しみな漫画です。

  • 電子あり
『ブレードガール 片脚のランナー(1)』書影
著:重松 成美

骨肉腫で片足を失った女子高生、鈴。生きる気力すらなくしていた彼女だが、義足技術者・風見と、競技用義足・ブレードとの出会いによって人生が大きく変わりはじめる。二度と手に入らないと思っていた、「走って、風を感じる」こと。そしてクールな風見には、ブレード開発にかける過去があり……。走る楽しさが心ゆさぶる、青春パラスポーツ漫画!

レビュアー

兎村彩野 イメージ
兎村彩野

1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始、17歳でフリーランスになる。万年筆で絵を描くのが得意。本が好き。

https://twitter.com/to2kaku

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