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『小学生がママでもいいですか?』ぢたま某(kiss×sis)の妄想が昇華した傑作だ!
(著:ぢたま 某)
これは傑作である
はじめに言っておこう。
これはすごい作品である。他に類を見ない作品である。
この作品のコミックスを買い求めた人々よ、あなたはロリコンかもしれないし、マザコンかもしれないし、ぢたま某の熱心な読者であるかもしれない。いずれも胸はって主張できない嗜好ばかりだが、恥じることはない。あなたは時代の先端にいる。おおいに誇るべきだ。
ぢたま某の『kiss×sis』はテレビアニメ化もされた人気作品である。第1話が掲載されたのは2004年。現在も「月刊ヤングマガジン」に掲載中の長期連載作品だ。
『kiss×sis』の世界観は、決して特殊なものではない。「朝起きるとエロいお姉さんがディープキスしている」という妄想は、誰もが抱く種類のものだ。俺はシスコンじゃねえぞと言う人もいるだろうが、安心したまえ、『kiss×sis』のお姉さんは血がつながってない。ようは、ただのかわいい女の子である。そういう子が、目覚めるとチュウしてくれている。あなたが男の子なら、そんな妄想、抱いたことあるでしょ?
妄想に著作権はない。したがって、同じ設定を使って物語をつくってもなんの問題もない。おそらくAVにはほとんど同工異曲のストーリーがある(あった)はずだ。だからこそ広範な支持が得られたのだし、だからこそ長期連載が可能だったのだと言うこともできる。
ところが、本作『小学生がママでもいいですか?』はそうではない。ここには、「この作品だけが持つオリジナリティ」が表現されている。そんな作品そうそうないよ。
マンガとは妄想を描くものである
マンガの多くは、妄想を描いている。
「押し入れの中に未来から来たネコ型ロボットが住んでいて、困ったとき助けてくれたらいいのになー」という妄想。「ゆかいな仲間たちと甲子園で活躍したいなー」という妄想。異性に関するものもむろんある。たとえば、「学校一の美人が幼なじみで、うだつのあがらない僕をずっと愛していてくれたらなー」とか。
逆に言うと、ヒットしたマンガのストーリーには、その時代に支配的だった妄想のかたちが表現されている。
「厳しい修行に耐えて巨人のスター選手になりたいなー」という妄想は、かつては大いに支持されたものだけれども、現在はほとんど実効性のないものになってしまっている。作品が古いものになるのは、たぶん、そのときだ。
『kiss×sis』が連載開始から10年以上を経過した今でも、まったく古さを感じさせないのは、誰もが抱くエバーグリーンな妄想を描いているためだ。さらに付け加えるなら、『kiss×sis』は現在、エロいクラスメイトやエロい先生がレギュラーになっている。妄想の幅がさらに広くなっているわけだ。
ところが、本作に描かれた妄想は、そうではない。
統計をとったわけではないから本当のところはわからないが、「小学生に愛されたい」という妄想は、普遍的なものとは言えないのではなかろうか? 「お母さんに甘えたい」も、同じじゃないだろうか? これって、すごくニッチな、スキマな妄想じゃないか?
「小学生=ジャリ」と考える人は多い。「お母さん=ベテラン女性」と思う人も多い。いずれにしても性の対象ではなく、妄想のネタにはなりにくい。
そういう一般性がない(ように思える)妄想を題材にするには、知恵がいる。
本作はその知恵の結晶である。単純にふたつの妄想をまぜ合わせて、両方の嗜好を取り入れたわけでは、むろんない。物語の構成はもちろん、それを語る手順まで熟考し、ふたつの性癖に興味がない(と思っている)人まで取り込もうとした、野心と思索と経験の産物である。
この作品に先行する形で「バブみ」という概念があり、それを描いたマンガがあることも知っている。
だが、そんなものはなんの役にも立たないのだ。上でマンガは妄想を描くものとか言ったけど、そんなことよりもっと大事なことがあるんだ。
マンガは、おもしろくなければいけない。ぢたま某は、それを描くことが可能な作家なのだ。だからこそ、ぢたま自身も、編集者も考えた。どう語るか思い悩んだ。
お察しのとおり、このネタ、語りようによってはすごくヤバイのだ。バブみですか、ハイ描けましたってわけには絶対にいかない。そういう題材をテーマにしたうえ、マンガとしてのおもしろさを語るにはどうしたらいいのか。これは、たいへんアクロバティックな作業である。誰にでもできるこっちゃない。
『kiss×sis』と比べ、本作は明らかにエロが少なくなっている。これはたぶん、このテーマを語るために(おもしろいマンガにするために)より手間暇がかかっているためだろう。
とはいえ。
読者ってのは無責任なもんだ。どうしたって期待しちゃうのである。
小学生のママ木々那(ここな)ちゃんは、エロやるのかなー。
今後の展開がとてつもなく楽しみな作品である。
- 電子あり
現代社会に疲れた♂(オトコ)には、時に癒(い)やしが必要だ。そう、抱きしめられて頭撫(な)でられて思いっきり甘えたい! ただし、赤いランドセルしょってる相手は勘弁願おう。そう、仕事に行き詰まりを感じていた俺がその日出会った小学生は────ママだったのである??? 『kiss×sis』のぢたま某が贈る、ちょっと危険なハートフル転生コメディー開幕!
レビュアー
早稲田大学卒。元編集者。子ども向けプログラミングスクール「TENTO」前代表。著書に『メールはなぜ届くのか』『SNSって面白いの? 』(講談社)。2013年より身体障害者。
1000年以上前の日本文学を現代日本語に翻訳し同時にそれを英訳して世界に発信する「『今昔物語集』現代語訳プロジェクト」を主宰。https://hon-yak.net/
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