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罪を犯した日から嘘を重ね続ける5人。今、真実の光が彼らの過去を浮かびあがらせる。
■いよいよ物語は過去と真実へ 骨はなにを語るか どう語るか
『骨が腐るまで』を追いかけて2年。本屋で1巻に出会ってから、2巻、3巻……と追いかけて、ついにここまで来ました。6巻です。
5巻からの続き(5巻のレビューはこちら http://news.kodansha.co.jp/5534 )で、解決の糸口と信じた北浜を追い詰めました。しかし、ふたりが部屋につくと北浜はですでに死んでいた……。手がかりはほとんど見つからず……。今回はここから始まります。
心が折れる音が聞こえてきそうなほど、なかなか前に進まない。葛藤や焦りのあまり、読みながら「ふーっ」と息が漏れました。このじれったさと、ひっくり返る感じが『骨が腐るまで』の楽しさでもあります。ストーリーで起きる問題を解決できない「残念感」が、次の新展開へつながるので、ページをめくる度にワクワクするんです。漫画とは読む体験だなと感じます。
公園でホームレスたちを束ねる、謎多きクレバーな女・スズランを欺こうと企む信太郎と竜。自分たちが解放されなければ、手詰まりとなる。
■『腐らない骨』は真実へ辿り着く物語、なのかもしれない
嘘は嘘を連れてきます。子どもたちは「罪」を背負った日から、「嘘」を重ね続けます。登場人物は罪と嘘を幾重にも重ね、重たい鎧を身につけて走り回るような日常を生きます。
人は真実や本音から遠ざかれば遠ざかるほど、心に錘の重量を増やします。重さを増すのは簡単ですが、重さを削るのはその何倍ものエネルギーと時間を使います。骨は罪と嘘の象徴のように本編に常に不気味な影を落とします。
子どもという小さな身体に錘はきつく、次第に肉体の体力を奪っていきます。人が健康で健全に生きる上で、いかに罪と嘘が弊害になるのか。影に怯えて生きることの不健康さを感じます。優しい嘘。自分を守る嘘。人を助ける嘘。この世界は多様な嘘でつながっています。
嘘がない世界は存在しないのかもしれない。罪がない世界には無理があるのか。ではこの世界は嘘と罪とどのようにして共存していくか。心の影は、肉体と連動して、人の命と直結します。真実が白くて美しい骨だとしたら、嘘と罪でできた肉体や心は骨にまとわりつく。
肉体や心は早く腐る。しかし骨はなかなか腐らない。ゆっくり風化していくしかない。真実とはどれだけ外側が変化しても変わることのない骨そのものです。ここにきて、この物語のタイトルの意味が、こんなふうに見えるようになりました。
■「腐らない骨=真実」へ辿り着く物語だったんだ、と
■起きたことは、「なかったこと」にはならない
スズランからの解放をみんなで感じつつ、現実に残る寂しさや違和感は変わらない。真実や事実は突然なかったことにはならない。つかの間の夏の時間を共有しながら、「人生は楽しいだけではない」と4人は実感します。生きるとは背負い続けること。その重さを仲間が教えてくれます。
暗闇の中であろうと、影を感じようと、世界は常に前にしか進まない。真実へ向けて覚悟を決め、信太郎は進むことを信じます。
真実の先に、心の錘を減らせると信じている。それは仲間のためであり、自分のため。今日がすべて過去で作られているのなら、過去の本当の姿を知ればいい。それのみが光。
信太郎はひとりですべてを背負おうとしているように見えます。全員の錘をひとりだけで未来へ持っていこうと。真実まで、光まで、あと数手だとわかっているのでしょう。将棋のようです。
覚悟を決めて歩き出した信太郎の前に、ついに藤井刑事が登場します。この漫画で、もっとも公平な目を持っているのは、じつは藤井刑事ではないかと、読みながらいつも思っています。信太郎が暗闇から光に向かって進んでいるとしたら、藤井刑事は光から暗闇に進みます。ふたりは同じ道を逆方向から歩み寄る鏡のような存在。そのふたりがついに、交差しました。それぞれの執念がぶつかります。
■クライマックスで、罪と嘘の真実に会いにいく
隠してきた闇に亀裂がはいり、光が差し込んで、見ないようにしてきたものが輪郭を持ち始めます。物語がいよいよ結末へ。
物語の始まりの回想で、父を殺した日が描かれます。夏祭りの夜、雑木林の中で何が起きたのか。父と息子は何を思っていたのか。このシーンから、嘘で作られた過去が崩れていきます。時間が真実の輪郭をなぞり、もう一度、正しい歴史で進むかのように。
父を殺した日の描写は今まで部分的には描かれていましたが、時間軸で描かれることはありませんでした。父はすでに死んでいたところから物語が始まっていたので、6巻後半にある一連の流れは、ぼやけていた人物の気持ちや細かいやりとりが、ようやくはっきりわかるようになったと思います。
30代後半という私の年齢も関係しているのか、殺された父の気持ちや行動の不器用さも想像できてしまうので、この漫画の最初の部分の「本当に父を殺す必要はあったのだろうか?」が少し見えてきた気がしました。
父と殺した日。そこから続く罪と嘘。心に錘を持って成長する子どもたち。事件に気づき始める大人たち。すべてがつながり、すべてに光があたる。すべての輪郭が揃うとき、そこには真実がある。
次回の7巻で長かった罪の物語は完結します(本編連載のサイトではすでに完結して最終話があがっています)。犯人探しという簡単な言葉では描ききれない、罪と嘘の真実に会いに行く作業です。
人間にとって何が罪なのか。罪とは何か。大切なものはどこにあるのか。骨が腐るまで。腐らずに残ったものが、最後に待っています。私の身体にも骨が入っています。きっとこの物語の結末は、私の中の骨にも届くはず。
7巻は2018年4月発売。それまでにもう一度まとめて読み直して、伏線回収探しを楽しむことにします。
- 電子あり
死者は何も語らない。追い詰めたはずの脅迫者はすでに亡く、公園の淑女からは解放されるも、気が付けば薄氷の上にたたずんでいた。闇を塗りこめるための闇。嘘を塗りつぶすための嘘。そして新たな人間が、敷きつめられたその嘘に手をのばす。罪を拭い去ることはできないから、せめて幕引きだけは自らの手で……。咎人の闇に真実という名の光をかざし、詫びるかわりに、君を追い詰めよう。
既刊・関連作品
レビュアー

AYANO USAMURA Illustrator / Art Director 1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始、17歳でフリーランスになる。万年筆で絵を描くのが得意。本が好き。
https://twitter.com/to2kaku
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