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講談社社員 人生の1冊【54】死刑は是か非か『裁かれた命』
佐藤雅伸 販売促進局 50代 男
「人が人を裁くこと」を世に問う、ノンフィクションの傑作

「この本を担当することを誇りに思う」
この本を読んでみようと思ったきっかけは、販売担当者のそんな一言でした。
最近、プライベートでは小説を読む事のほうが多く、ノンフィクションは話題になっているものを読む程度だったのですが、読み始めてすぐに「これはとんでもない本に出会ってしまった!」と思いました。
さて、この本は被告人である若い死刑囚が検事、弁護士にあてた57通に及ぶ手紙を軸に、著者の丁寧な取材によって彼と彼を取り巻く人々の人間像と事実がどんどん浮かび上がってくるという構成になっています。
“本当にこの若者は死刑にならなければならなかったのか”が精緻でありながら穏やかな文章で綴られていき、読むものを引き込み、時には我々の胸の内に鋭く切り込んできます。私も読みながら幾度となく“うめき声”を発してしまうほどでした。
「死刑裁判の法廷で裁かれた被告人は、長谷川武である。しかし、彼の死をもって裁かれたのは、彼を囲んだ人たちだったのかもしれない。」(P.339)
死刑を求刑した者たちの生涯にわたる葛藤と、人が人を裁くことの難しさを鮮明に描き、また、昭和という時代のどこか埃っぽい空気の匂いまで感じさせる著者の筆力には本当に驚かせられます。
著者はこの本の中で、「限られた材料で判断を下さなくてはならないという裁判の大前提、そして人が人を裁くことの不完全さを、裁く側は頭に入れておかなければならない」とし、「そのことは、迅速性が優先されがちな裁判員裁判ではなおのこと」と提言しています。
新しい裁判員制度の導入によって、われわれ一般市民が人を裁かなければならない場合があり、そしてもちろん、死刑を求刑する可能性だって大いにあるということを今さらながら気づかされました。 “死刑は是か非か”は簡単に結論が出るものではないだろうし、そもそも正解はないのかも知れませんが、我々がずっと背負い続けていかなければならない問題なのでしょう。
最後に、“良質のノンフィクション作品が思考の幅をいかに広げてくれるか”を再認識させてくれたこの作品に敬意を払いたいと思います。
- 電子あり
1966年、強盗殺人の容疑で逮捕された22歳の長谷川武は、さしたる弁明もせず、半年後に死刑判決を受けた。独房から長谷川は、死刑を求刑した担当検事に手紙を送る。それは検事の心を激しく揺さぶるものだった。果たして死刑求刑は正しかったのか。人が人を裁くことの意味を問う新潮ドキュメント賞受賞作。
執筆した社員

佐藤雅伸【販売促進局 50代 男】
※所属部署・年代は執筆当時のものです
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