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講談社社員 人生の1冊【51】『大逆転! 小説 三菱・第一銀行合併事件』
(著:高杉 良 )
前田亮 with編集部 40代 男
向き合うということ
![](/content/images/201801/5648/photo.jpg)
大学生の頃、企業小説にはまった。なぜ夢中になったか、もはや記憶は定かではないが、ちょっとでもこれから先の世界をのぞきたかったのだろう。世の中の右も左もわからない学生の私には、人間関係の機微や困難に直面した主人公の心理描写がとても興味深く、さまざまな業界の、いろんな立場の人のストーリーをむさぼるように読んだ。
もうひとつ、四半世紀前のかすかな記憶。講談社入社試験の一次面接か二次面接でのこと。
「好きな作家は、誰ですか?」
「高杉良さんです。理由は……」
もっともらしいことをあれこれ言ったのだろうが、そこはもう全然記憶にない。ただ、そのやりとりののち、今、講談社でこうして仕事をしているのだから、今回のこの企画、やはり高杉さんの、私が好きな作品を推す。
ご紹介する『大逆転! 小説 三菱・第一銀行合併事件』は、文字通り、1969年の三菱・第一両銀行の合併話の末を描いたもの。合併問題に直面し、反対をとなえて左遷され、それでも反対活動を続けたひとりの男をクローズアップしている。当時の三菱銀行は、現・三菱東京UFJ銀行、そして第一銀行は、現・みずほ銀行として存在していることから、結末がどうなるかは、ご想像のとおり。ただ、これを書くにあたって再読した私が「やっぱり高杉本は面白い」と思ったのは、合併話の経緯を紡いでいる部分ではなく、主人公の「向き合う姿勢」を著者があざやかに描いているところだ。
理想と現実、順境と逆境、周囲との人間関係……当たり前のことだが、会社では(というより人生には)、さまざまな課題が出来する。そして、これまた当たり前のことだが、人は誰しも直面した課題に、きちんと向き合わなければならない。あらためて思った。本書は、「向き合う姿勢」に迷ったときに、あるいはうつむきそうになったときに、きっとパワーを与えてくれるに違いない1冊だ。とにかく、読後感がいい。元気にしてくれる。
化粧品会社の新製品発表会から帰社する途中、有楽町の三省堂で、この文庫を入手した。奥付の横に「本書は、1983年2月に講談社文庫より刊行された『大逆転』を改訂し、文字を大きくしたものです」と記載がある。私が初めて読んだのは改訂される前、たぶん80年代のなかばの大学時代。あの頃、将来はまだ見えず、ましてや職業人として、自分がどんな職場で働き、どんなことが起きるのか想像もつかなかった。この会社に入ってなぜか女性誌の編集者となり、そのまま二十数年。ちょうど今、アパレル会社や化粧品会社の来春向けの展示会、発表会が花盛りで、ちょっとくたびれているときもある。けれど、思った。前に進む活力が欲しいとき、また本書を手に取ろう、と。
- 電子あり
三菱、第一銀行が合併──1969年元日、歴史的スクープが読売新聞の一面を飾った。金融国際化を見越した両行頭取による合併工作に、非財閥系の第一マインドを消滅させてはならじと1人反対の姿勢を貫いた常務の島村。いきなりの左遷にも怖じることなく闘う姿に、組織と人間のあり方を問う記念碑的企業小説。
執筆した社員
![講談社社員 人生の1冊 イメージ](content/images/201801/5648/icon.jpg)
前田亮【with編集部 40代 男】
※所属部署・年代は執筆当時のものです
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