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講談社社員 人生の1冊【49】箱根駅伝で瀬古利彦から受け取ったタスキ 『冬の喝采』
吉田健二 広報室 40代 男
異色の青春スポーツ小説
大学の体育系クラブの後輩に渡したら、こう言って本を返してくれた。
「ありがとうございました。ケガで思ったように練習できなくて腐ってましたけど、苦しんでるのは自分だけじゃないんだと思えました。もう競技生活はやめようかと思ってましたが、もうちょっと頑張ってみようと思います」
後輩はケガから復活して大学の代表選手になった。この本に救われ活躍できたわけだ。
著者の黒木亮さんは、経済小説に定評があるが、実は早稲田大学競走部出身。箱根駅伝では瀬古利彦とタスキをつないだ名ランナーだった。故郷の北海道で競技を始め、早稲田大学に入学。そこで中村清監督に怒鳴られながら箱根を目指す自伝的小説だ。
青春スポーツ小説ではあるが、この本が違うところは、競っているのが他の選手ではないところ。主人公は自分自身と戦い続ける。小説の基になっているのは、学生時代に付け続けた練習日記。練習メニューやタイム、その時の体調や苦悩を克明に記録していたのだという。
高校・大学とケガに苦しみながら陸上競技を続けるが、同級生の瀬古にはとても敵(かな)わない。箱根で走ったからといって有名人になれるわけでもない。もちろんカネにもならない。走る動機は完全に自己満足のため。自分を甘えさせなかった、自分をとことん追い込めた──あまりにもストイックな世界だ。
享楽的な学生生活とは無縁に生活の全てを陸上に注ぎ込む姿は、「狂気」とも言える。でも、そんな姿がカッコイイ。だからこそ箱根駅伝は面白いんだと納得できる。
文中にこんなフレーズが出てくる。
レースの結果は、わずか一行に集約される。残る物は、氏名、記録、区間順位、チーム順位の四項目だけである。そこには、怪我をしていたからとか、風邪をひいていたからと書かれることはない。
現在の部署・広報室(※注 2011年当時)に異動する前は、15年間、週刊誌にいた。他誌にスクープを取られた言い訳、原稿がなかなか書けない言い訳、そんなことばかり考えていたように思う。このフレーズを読むと、身が縮むような気がする。
箱根駅伝選手だった作家の自伝的感動長編小説
「天才は有限、努力は無限」北海道の大地を一人で走り始めた著者が、怪我によるブランクを乗り越え、準部員として入った競走部には、世界的ランナー・瀬古利彦がいた。入部後も続く怪我との戦い、老監督との葛藤など、1年8カ月の下積み生活に耐えて掴(つか)んだ箱根駅伝の桧舞台で、タスキを渡してくれたのは瀬古だった。それから9年後、30歳になって自分を箱根路に導いた運命の正体を知る。
既刊・関連作品
執筆した社員
吉田健二【広報室 40代 男】
※所属部署・年代は執筆当時のものです
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