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“罪”とともに生きる少年たちに初めてやってきた後悔!? 『骨が腐るまで』
1ページ読み始めると手を止められなくなります。もしこの世界の正義や愛でパズルを作ったとしたら、この漫画が持つパズルのピースはあまりにも歪みすぎています。歪みすぎて足りないものが、はまりそうではまらず。埋まらない小さな穴がもどかしく、息苦しくなる。なのにその息苦しさすら忘れて読み込んでしまう。これは間違いなく極上のサスペンスです。
不思議なのは、どこを読んで切り取っても、ふっと気を抜くとタイトルに戻ってしまうこと。「骨」の不気味な存在感が想像以上に読者に残像を残します。
死んだ人間の骨が腐るまでの時間。それは小さな子どもが大人になるには十分な時間。そんな子どもたちに起こった、悲しく切なく怖くどうすることもできなかった時間の中から、歪んでしまったパズルのピースを探して生き抜く物語です。
中村信太郎、豊島椿、神崎明、二枚堂竜、永瀬遥。男子3名、女子2名の日本のどこにでもいるような仲良し5人組。幼なじみと呼ぶのは軽すぎるくらい、5人の関係には湿度があります。
物語は彼らが11歳のとき、我が子にDVを繰り返す信太郎の父をみんなで殺害するところから始まります。殺せば自由が手に入ると思っていた子どもたちですが、父の死後、重く苦しい「秘密」という十字架を背負うことになります。
決して誰にも言うことはできず、殺人の話題に触れるのは夏祭りの日のみ。年に一度、夏のその日。洞窟に集まり、埋めた信太郎の父の骨を確認する。背負うにはあまりにも幼く、残酷と言えば言葉が足りない。子どもたちが秘密にする罪はどこまでも心を深く闇へ連れて行きます。どれだけ深く闇へ連れて行ったとしても、子どもたちは子どもを演じ切ります。
「子どもを演じ切る子ども」というものは、こんなにも静かで不気味なのかと感じます。
「後悔」がキーワード。子どもたちは事件の深層へたどり着けるのか
さて、今回の5巻は事件も中盤というところでしょうか。仲間だった明の衝撃的な死から、いよいよ事件の核心に迫っていきます。
今までは全員、罪や嘘を隠すために動いていましたが、徐々に皆の心を後悔の念が重く重く支配していきます。誰かが折れそうになると、誰かが励ます。誰かが崩れそうになると、周りで支える。この巻はとくに各キャラクターの「後悔」がキーワードになっています。みんなが後悔の感情から、少しずつ疲れ始めてきています。
幼なじみという思春期の純粋さなのか、人間の優しさなのか、感情が入り乱れつつ非現実的な事件が重なり、子どもたちは自分たちのことがわからなくなってきています。それでも迷いながら前に進もうとします。
助け合っていたはずの仲間が、友情を試すように傷つけ合う。吐き出せなかった言葉が溢れて止まらなくなる。サスペンス漫画なのですが大人のスリルとも違う、高校生らしい思春期のときにあった友だちへの繊細な感情描写が続きます。
本音をぶつけ合いながら、同じ秘密を持つ仲間としてつながり続けます。
信太郎の閃きもあり、事件の深層へ近づいていく子どもたち、同じタイミングで藤井刑事の勘により、別の角度から迫ってくる捜査一課チーム。こじれにこじれている糸が少しずつほぐれてきました。
事件に大きく関わるポイント、父の骨を盗み、死体の処理を指示してきた「第一の指令」の犯人に信太郎たちは近づきます。そこにはたして犯人はいるのか。手がかりは残されているのか。
真実の少し手前までは辿り着きますが、確信は掴めず。前へ進みつつ停滞。うまくいかない中で小さな光を見つけ、閃き、次の一手を探ります。
今回は5巻のレビューなので、ご興味のある方は1巻から一気に読んでいただけると、このコマのもどかしさが伝わるかと思いました。読んでも読んでも、全員が怪しく感じてきてまさにサスペンスです。柔らかい絵柄の中に狂気を感じ、そのギャップにまたゾッとします。
罪とはなんだろうか、と考えずにはいられない
この漫画を読んでいると、罪とはなんであろうかと考えてしまいます。そして各所に出てくる漫画を象徴する「骨」。骨は埋められた土壌の成分によって風化しにくいこともあり、今でも遺跡から、古い遺骨がそのまま出てくることがあります。
この漫画の「骨」という表現が、だんだんと消えない罪と、罪の時間の永遠性を感じてなりません。後悔とは巻き戻せない時間の先にあるもの。1つの罪は次の罪を連れてくる。誰かの正義と、誰かの答えにはズレがある。それを何度も何度も漫画の中で感じます。
どの登場人物にも闇があり、もう誰が真犯人でもおかしくないですし、まったく違うキャラが犯人でもしょうがない! と感じます。
ちなみに、5巻の巻末には、「第一の指令」事件が起きる1年前の夏祭りの物語が読み切りで入っています。
混沌としすぎている現在の本編に対して、まだ父の殺害を秘密にしているだけのころの話は、なんだか懐かしく少しホッとしながら読めました。よい読み切りでした。
読み終わって、もやもやがさらにもやもやに。あぁ早く6巻が読みたいです。
- 電子あり
犯した罪と、深まりゆく謎。真相の断片を組み合わせ、かたどられたのは、わかりきっていた答え。遠まわりをした。ずいぶん、長く。月明かりの下、ようやく罪は受肉する。だが、重ね続けた過ちが帰り路を塞ぐ。夜の底から暗い声が響きはじめる。怨嗟、呪詛、悲嘆の鳴き声が終わりを告げる。多くの生贄を捧げた末に辿り着いた場所にあった「それ」が、総ての根源なのか……?
既刊・関連作品
レビュアー
AYANO USAMURA Illustrator / Art Director 1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始、17歳でフリーランスになる。万年筆で絵を描くのが得意。本が好き。
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