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読むと食べたくなる、これぞ絶品の“うなぎ”ワールド全開です!

う 一の丑
(著:ラズウェル細木)
2015.07.24
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“読むと元気になる”のがモーニングのキャッチフレーズですが、“読むと顔を近づけたくなる”のがこの『う』という本です。
さてこの『う』ですが、“卯”でも“鵜”でも“烏”でも“兎”でもなく、ましてや“雨”ではありません。若干“雨”に関係なくはないですが、この『う』は“梅雨”あけにやってくる夏の土用の丑の日になくてはならない“うなぎ”の“う”なのです。(書影ご覧になれば一目瞭然ですね……)

いかなる説得力なのか、コマ運びなのか、はてまた浮き世離れ感ただよう呉服屋の若旦那、主人公藤岡椒太郎さんのキャラが醸し出す雰囲気の良さなのでしょうか、読むとおもわず顔が誌面に近づいているのに、ハッとします。視力の問題ではありません。ついついうなぎの蒲焼きの香りがするのではないかと思ってしまって……。でも悔しいことには誌面からは運が良くても(!?)インクの香りしかただよってきませんが……。

シェヘラザードの1001話にはおよびませんが、江戸八百八町を八つに折った101話、煩悩の108には届きそうなお話で語られるのは、どこからどこまでもうなぎを食べることばかり。煩悩には届きませんが、ことうなぎ食いについては七つの大罪の一つ“暴食”には入ってしまうかも知れません。なにしろ頭の先から尾のところまでしっかりつまったうなぎ語りなのです。
とはいってもなにか“うんちく話”を集めているわけではありません。スーパーで売っているうなぎのおいしい食べ方やご飯でうなぎを挟む食べ方がふさわしいTPO、白焼きはどのように食するとサイコーなのか、さらには「半助豆腐」の作り方など実に実用的な話がいっぱい詰まってます。

この土用の丑の日、この本の中でも紹介されていますが、江戸時代に夏にうなぎが売れずに困っていたうなぎ屋に頼まれた平賀源内が考え出したコピーだといわれています(一説によればですが)。丑の日に“う”のつくものを食べるといいっていう当時の言い伝えとむすびついて広まったそうです。さすが奇才、天才平賀源内です。

もっとも、旬のものを食べると身体にいいというところからいえば、うなぎの旬はいつかというと、これは脂がのっている冬といわれています。(この本では産卵を前にした秋と書かれています。どちらにしても夏ではないようです)
それでも、脂ののりはさておいてもうなぎが栄養価の高いものであることはまちがいありません。

ちなみに今年2015年の土用の丑の日は、春が4月19日、夏が7月24日と8月5日、秋が10月28日、そして冬は来年1月13日と1月25日だそうです。さてどの土用の丑の日にしようか、椒太郎さんの甥(?)の登くんのように全制覇するのもいいかもしれません。つまるところ椒太郎さんと同様にいつ食べても申し分ないのがうなぎなのです。

関東風と関西風のうなぎのさばきかたの違いや調理の違い。お頭を付けたまま焼く関西風。そしてそのお頭の食べ方まで実にいたれりつくせりの名品です。ぜひご賞味くださいませ。
ところで椒太郎さんのマイ山椒、飛騨産なんでしょうか……。
あ、それと、名古屋の“ひつまぶし”、櫃まぶしですよね、つい、ひつま-ぶし、ってアクセントつけて言ってしまいますけど……。椒太郎さんのうなぎ愛を見習わなくちゃいけません。生態系の謎の多いうなぎ、しかもシラスうなぎの漁獲量が減ってきてるんですから大事に育て、美味しくいただかなくちゃいけませんね、みなさま……。

既刊・関連作品

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。

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