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「選択」の重大さを描く寓話

進撃の巨人
(著:諫山創)
2015.07.15
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自分はこの作品にちょっとだけ関わっている。以前、同じようにちょっとだけ関わっている人に、こう語ったことがあった。

「このビル、巨人でできてるぜ」

ビルというのは、版元である講談社の高層ビルディングのことだ。
作品を知っている者だけが語れる、ニッチなジョークである。少しやらしい感じもするが、こういうジョークを語ったことがない人を探す方が難しいだろうし、だいぶ前だからいいだろう。

その後、ビルの中の巨人はどんどん大きくなった。テレビアニメが放映され、映画化された。実写映画も撮影された。コンビニを含めた数々のキャンペーン・キャラクターとなった。展示会も各地で開催された。明らかに経営が傾いていたUSJの大復活劇の要因のひとつともなった。たぶん、そのたびにビルの中の巨人は大きくなっているだろう。

とはいえ、巨人がビルの中でどれほど大きくなろうと、この作品が描くテーマは変わっていない。
これは「選択」を描いたドラマなのだ。まるで変奏曲のように「選択」というテーマがさまざまな人物を訪れ、繰り返し語られる。

人は誰も、人生の岐路に立つことがある。どっちに行くのが正解かわからない。行ってみなきゃわからない。むろん先達があることは多いし、彼らの意見にしたがうことも多い。ただし、それが正解とは限らない。先達はそっちをたどって成功したかもしれない。しかし、あなたはどうかわからない。人格も、境遇も、違うのだから。
また、先達の意見を聞き入れるかどうか決定するのも「選択」なのだ。なるほど先達は右へ行って成功したように見える。しかし、左に行ったならもっと大きな成功を手にしていたかもしれない。右の道を行けば成功だとみんな言うが、先に待っているのは崖かもしれない。

作品内で、登場人物がこう語るシーンがある。
「結果を知った後で選択するのは誰でもできる。後で『こうすべきだった』と言うのは簡単だ。でも……選択する前に結果を知ることはできないだろ?」

誤った選択をしたせいで、死んでいく者たちがいる。この世界で選ぶとは、なんて重いことなのだろう。そう思わずにいられない。
だが、「選択」とは本来そういうものなのだ。誰にとっても重大であり、難解なことだ。みんなそれを忘れてるか、見ないふりをしている。悩んだところで正解はわからないから。そのくせ責任はとらなければならないから。

読むんならそこまで読めよ、と言われてる気がする。
ビルに巨人が埋まってるとか言って、笑ってんじゃねえよ。

もうひとつ。この世界は、あの世界にほんとによく似てる。物語が進むにつれ、そう感じることが多くなった。これはまさに寓話なのだ。

既刊・関連作品

レビュアー

草野真一

早稲田大学卒。書籍編集者として100冊以上の本を企画・編集(うち半分を執筆)。日本に本格的なIT教育を普及させるため、国内ではじめての小中学生向けプログラミング学習機関「TENTO」を設立。TENTO名義で『12歳からはじめるHTML5とCSS3』(ラトルズ)を、個人名義で講談社ブルーバックス『メールはなぜ届くのか』を出版。7月21日、ブルーバックスより『SNSって面白いの?』を刊行。「IT知識は万人が持つべき基礎素養」が持論。2013年より身体障害者になった

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