ゲームだったら即修正される仕様バグみたいなスキル
題名がスーパー長いので、レビューを書く前に略称をつけておきたい。じゃないと収拾がつかない。
正式タイトルは『【パクパクですわ】追放されたお嬢様の『モンスターを食べるほど強くなる』スキルは、1食で1レベルアップする前代未聞の最強スキルでした。3日で人類最強になりましたわ~!』……なので、以後このレビューでは『パクパクですわ』と呼ばせてもらいます。
さて、『パクパクですわ』は、とある世界の侯爵令嬢“シャーロット”が、「ギフト」と呼ばれる不思議な力を得て、ひたすらモンスターを食べて強くなる無双マンガだ。
彼女が生きる世界では、15歳になると誰しもが「ギフト」を授かるそう。しかもギフトの中身次第で人生が大きく変わっちゃうのだという。バクチ要素満載だ。
でもシャーロットのおうちは侯爵家。貴族のなかでもかなりハイクラスだし、彼女は何一つ不自由なく大切に育てられたお嬢さま。だからお父様も「役に立たないギフトだろうが構わないよ~」なんて余裕たっぷりに言うのだけど、そんな箱入り娘のシャーロット嬢が引き当てたギフトがこちら。
本人は「なんのことですの?」って顔だけどお父様は顔面蒼白。お父様にとって、このギフトはあまりに下品すぎるのだそう。
ってことでシャーロットはサクッと追放されてしまう。
無慈悲すぎる。カバンひとつでどうやって生きていくの?
でもシャーロットは浮世離れしたお嬢様だから「街のレストランに行って食事をしましょう」なんてスタスタ歩き始めて……、
スライムに遭遇する。令嬢だろうが勇者だろうが、最初に出合うのはいつだってスライムなのだ。
自分が授かったギフト「モンスターイーター」を思い出すも、スライムを直接口に入れるなんて生理的に無理! ああこのまま何もできないままスライムに倒されちゃうのかしらとうなだれるシャーロット。でも!
素直で真面目なお嬢様は、家庭教師の教えを忘れない。そこで「プチアイス」という氷の魔法を使ってみると……?
スライムがシャーベットに! しかもガラスの器に入って、ミントが添えられて、ランチョンマットまで敷かれてる。なんだかちゃんとしたお店の一皿みたい。
なるほどね。たしかに私だって鶏肉が好きだけど鶏をそのままでは食べないし、食器がちゃんとしていると料理はうんと美味しく感じるもんなあ。
で、ちょっと気がとがめるけれど、お腹ぺこぺこのシャーロットはスライムシャーベットを恐る恐る口に運んでしまう。
あ、美味しいんだ。このあと食レポをスルスル述べて、たちまち完食。でもまだ足りなくて……!
一度味を覚えてしまうともう忘れられない。そして食後に待っていたのは?
レベルアップ。ただ美味しいシャーベットを食べまくっただけで捕食ボーナスという名目で防御力が105も上がってる! ゲーム序盤でこのパラメータはありえない(しかも「捕食ボーナス」ってことは、これはオマケで、基本的な強さは別途アップしてる可能性が高い)。
つまりそれだけシャーロットはたくさん食べちゃったのだろうが、それにしても食事量に対するレベルアップの関数がイカれてる。どうなってんの?
ひー! 実際のRPG系のゲーム開発だったらゲームバランスを大きく崩す仕様バグってことで即潰される(というか実装前にプログラマに絶対確認される)ようなシロモノだ。あるいは「運営はクソ」などとネットでユーザーからお叱りの声が上がるだろう。
パクパク美味しく食べるだけで、わずか初日でゲーム中盤~後半の強さ。こんなの「チートし放題だぜヒャッホー」? いいや、そっちに転ばないのが侯爵令嬢であり、『パクパクですわ』の楽しいところ。
シャーロットは食材(モンスター)の可能性に触れ、大いに感動し、美食に目覚めてしまう。
あのモンスターはどんなお味?
ということで、追放されたお嬢様は「たくさん美味しいモンスターを狩ってパクパクしていきますわ」という冒険の目的を立ててパクパクしていく。パクパクするたびに強くなる。
ゲームの世界でおなじみのミミックはどんな味?
そんなシャーロット嬢のパクパクぶり……いやご活躍は、やがて冒険者ギルドのあいだでも話題に。
まさかパクパクしたくて戦ってるなんて誰も思っていない様子。お嬢様は、お金や経験値や冒険者の作法はちょっとよくわからないけれど、食と真摯に向き合っている。魔王も出てくるのかな。がんばって!
【パクパクですわ】追放されたお嬢様の『モンスターを食べるほど強くなる』スキルは、1食で1レベルアップする前代未聞の最強スキルでした。3日で人類最強になりましたわ~!(1)
著 : 島知 宏
原作 : 音速 炒飯
その他 : 有都 あらゆる
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
twitter:@LidoHanamori