「神隠し」――。こつ然と人が消えてしまう、そんな現象を表すこのフレーズには、恐ろしさと同時に、どこかミステリアスで不思議な引力があります。『かみながしじま ~輪廻の巫女~』は、そんな「神隠し」によって、“人ならざる者”が跋扈(ばっこ)する世界へ飛ばされてしまった主人公たちが、サバイブしていく様を描いた作品です。
本作を引っ張っていくのは、ふたりの女子高生。
夜の学校を舞台に物語は始まります。コンビニに行きたい、という萌の提案に「コンビニに行くのは大変」「見つかったらどうなるか」と答える先生や、ボロボロに描かれた校舎の様子から、すでにただならぬ雰囲気が……。
話し合いの結果、車でコンビニへと急ぐ3人。そんな彼女たちの前に現れたのは、人間のようで人間ではない化け物たち。次々と出現する「それ」(この時点ではまだゾンビやウォーカーといった具体的名称はありません)に対し、みこはアサルトライフル、萌はショットガンで応戦。
ド派手で物々しいオープニングから一転、物語は2週間前、事件の発端となる日にさかのぼります。
人口千人未満の小さな島で神社を営む天音みこ一家は、その日、いつもと同じ日常を送っていました。ただひとつ、違いがあるとするならば、父のこの発言。
いまひとつ父の真意が掴めないまま、運命の一日が始まります。高校最後の文化祭の準備を終え、学校を後にするみこ。
こう見えて彼女は、剣道強豪校の主将です。父の言いつけに従い、本土への移動のため早めに帰宅しますが、何やら不穏な気配が。
本土へ移動すべく、父とみこ、そして弟・拓(たく)の3人は車で港へと急ぎます。朝からいつもと違っていた父に、みこが「隠し事でもあるの?」と問いますが、明らかに父の様子がヘン。
不気味な表情を浮かべる父、のような何か。次の瞬間、車は木に衝突。みこはしばらく気を失ってしまいます。目が覚めると、車内には父も、拓もいなくなっていました。車外へ出ると、そこに広がっていたのはボロボロの建物や、人気もなく荒れ果てた景色。
スマホも圏外。誰もいないのか……とあたりを探し回っていると、ついに第一村人発見! しかし残念ながらそれは村人ではなく“人ならざる者”でした。慌てて車内へと逃げ込みますが、しつこい「それ」はみこをロックオン。
みこ、絶体絶命の大ピンチ……そのとき!
ヒロインが命のあぶない! そんな展開になるとこれまでは、ヒーローや恋人・友人・家族が命の危険を顧みず助けに来るものですが、このシーンでは自らの力で危機を脱出します。剣道強豪校主将の本領発揮。しっかりと物語序盤での竹刀の伏線をさらりと回収。令和のヒロインは強い!
とはいえ、まだまだ10代。不安でないはずがありません。知った顔がいないどころか、化け物に襲われるという絶望的状況のなかで、村の駐在さん登場。みこもホッと一息。
さらに、駐在さんと一緒に逃げ込んだ家には、クラスメイトの萌もいました。
冒頭でのふたりのバディぶりと比べると、ここではみこが「楠美さん?」と苗字で呼んでいることから、この時点ではまだそこまで親しくなかったことがうかがえます。2週間のサバイバル生活でシスターフッド感が醸成されている様子。
さて、みこを安心させてくれた駐在のおじさんですが、隠れ家が化物たちに囲まれてしまった状況で、自ら堂々とフラグを立てます。
そして2ページ先でこうなります。
さよなら、おじさん――!
おじさんが化け物に襲われている今こそチャンス! 萌に「早く逃げよう!」と促すみこですが、萌は力強くこう言い放ちます。
おじさんの上半身は化け物に食われ、残された下半身に装備されていた武器を漁る萌。さらに彼女は、上半身だけでは飽き足らず、みこたちを襲おうとする化け物たちに向かって、おじさんの下半身を投げつけます。
令和のヒロインは、たくましいのです。
やがて、週刊誌記者だという網野光なる人物が現れ、本作で初めて“人ならざる者”に名前が与えられました。その名も「人形(ヒトガタ)」。
網野は、かつて起こった大規模失踪事件を追うなかで、ひとつの仮説にたどり着きます。それは、「人形が跋扈する異世界に自分たちも神隠しにあった」というもの。
車内から消えてしまった(豹変した)父、そして弟の拓はどこへ行ってしまったのか。果たして今みこたちがいる場所、いや、世界はどこなのか。元の世界へと戻る術はあるのか。
みこと萌のバディモノな要素も垣間見られるサバイバルホラーアクション。息つく暇もない、ノンストップな怒涛の展開にドキドキさせられる作品です!
レビュアー
中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
twitter:@hoshino2009